エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

歴史

長い19世紀と神経科学の歴史

数字上の19世紀は1801年から1900年までだが、1789年のフランス革命から1914年の第1次世界大戦の始まりまでを「長い19世紀」とまとめて考えると腑に落ちるという話がある。一般的なレベルで個人が意識されるようになる端緒としてのフランス革命にはじまり、人…

「踊れわれわれの夜を、そして世界に朝を迎えよ」

朝、池の周りの木々と青空を見上げると風が流れるような気がする。働き始めたばかりの上の子に送る写真を撮る。 佐々木 中の「踊れわれわれの夜を、そして世界に朝を迎えよ」を読む。 踊れわれわれの夜を、そして世界に朝を迎えよ 作者: 佐々木中 出版社/メ…

人間を人間たらしめているのは何か

明けましておめでとうございます。今年の一番の目標は「健やかに暮らすこと」なので、早速昨日からスポーツクラブに行って、ウォーキングとヨガをやってきた。気のせいか体が軽い。 アリス・ロバーツの「人類20万年遥かなる旅路」を読む。人類20万年 遙かな…

クロード・シャノンとその伝説

庭の鉢の赤い花が咲いていて、そろそろ晩夏になるのかと思う。 ジョン・ガードナーの「世界の技術を支配するベル研究所の興亡」を読む。世界の技術を支配する ベル研究所の興亡作者: ジョン・ガートナー,土方奈美出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2013/06/2…

それは祈りに似ている

この夏の温度の上がり下がりはいつもより極端な気がするが、気がするだけかもしれない。 気になっていたこの本を読む。 白井聡 「永続敗戦論」永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)作者: 白井聡出版社/メーカー: 太田出版発売日: 2013/03/08メディア…

存在論の帝国に外部はない

シベリア高気圧がやや後退したらしくて暑さも一服。内田樹の「他者と死者」を読む。他者と死者―ラカンによるレヴィナス (文春文庫)作者: 内田樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2011/09/02メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 18回この商品を含むブログ (19…

エンジニアリング

先日、Y財団の交歓会に参加した。正八面体の錯体の自己集合過程を計測する大変独自な方法を開発したchemistのtalkを聞いて大変感心する。報告の後の懇談会でよもやま話をしていて、「うまくいっていることを確認する方法があいまいなので、新しい実験系の開…

戦後史の正体

あまりの暑さで折角買ってきたほおづきが赤くなる前に萎れてしまっている。 孫崎亨の「戦後史の正体」を読む。戦後史の正体 (「戦後再発見」双書1)作者: 孫崎享出版社/メーカー: 創元社発売日: 2012/07/24メディア: 単行本購入: 31人 クリック: 410回この商…

悪と徳と岸信介と未完の日本

桜の花びらの舞う光景をはじめてきれいだと思ったのは高一の春だった記憶がある。 福田和也の「悪と徳と岸信介と未完の日本」を読む。悪と徳と 岸信介と未完の日本作者: 福田和也出版社/メーカー: 扶桑社発売日: 2012/04/07メディア: 単行本 クリック: 8回こ…

経済成長神話の終わりは日本国の終わりかもしれないが、日本の終わりではない

昨夜は、人形町にでかけて、友達と地鶏を食べる。親子丼が普通においしい。品の良いぐい呑みをもらう。 平川克美の「移行期的混乱」を読む。移行期的混乱―経済成長神話の終わり作者: 平川克美出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2010/09/09メディア: 単行本購…

研究コミュニティにおける中国人のpresenceについて

私の研究上のアイドルは、神経科学ではMoo Ming PooとG. Buzakiと(陳腐だが)Cajalなので、中国の方々の能力を高く評価している。また、文学の中で最も愛好するもののひとつは漢詩で、中でも杜甫と屈原には常に共感を覚えてきた。 最近、米国でラボを持って…

3つの原理

昨日が冬至で今日は年賀状書き。でも、今年のうちにやっておくことがまだ残っているので、冬休み気分にはなれそうもない。 ローレンス・トーブの「3つの原理」を読む。3つの原理―セックス・年齢・社会階層が未来を突き動かす作者: ローレンス・トーブ,神田…

歴史の方程式

シカゴから昨日帰国した。今度の学会は収穫が多かった。7年半前に今の研究室に加わった時に新たにテーマを立ち上げたのだが、そのときに考えたアイデアにはほぼひととおり手をつけ終わり、当たったものにさらに工夫を加える形で発展させてきた。1、2年前…

英雄ではないダーウィンについて

さすがに朝方は涼しくなってきて、6時前に新聞を取りに玄関のドアを開けて出て行くと、肩をひんやりと風が抜ける。 デズモンドとムーアの「ダーウィンが信じた道」を読む。ダーウィンが信じた道―進化論に隠されたメッセージ作者: エイドリアン・デズモンド,…

権力は腐敗する。絶対権力は絶対的に腐敗する

昨日は昼過ぎから、統合失調症の分子メカニズムの権威AS先生のセミナーを聞きに行ってきた。2000年のAS先生によるDISC1の発見は「統合失調症のような心の病についに分子生物学が手をかけられるようになった」という驚きをもって受け止められた。AS先生のセミ…

甦る怪物

研究は不思議なもので、進み方にかなりの波がある。1年か2年に1回くらい、何をやってもうまくいく、あるいは何を考えても上手く当たる(という気がする)ときがある。そのときにどれくらい根を詰められるかが、いい仕事をする大事な鍵だと思っているので…

否定と流動

最近、イギリスのSさんとメールのやりとりをしている。お互い論文で名前を知っていただけの仲なので、最初は「こんなこと書いてもいいのかなぁ」という感じだったが、お互いの興味がほとんど一致している(幸い手法が異なる)ことがだんだんわかってきて、打…

minimal NCC

再来週、神戸大で英語の講義を頼まれていて、そのための英語のブラッシュアップにBrian Science PodcastのChristof Kockの回を繰り返し聞いている。そのうちにふとNCC(Neurocal Correlate of Consciousness)を構成可能な最小ニューロン数はどれくらいだろう…

奇想天外・英文学講義

高山宏の「奇想天外・英文学講義」を読む。奇想天外・英文学講義―シェイクスピアから「ホームズ」へ (講談社選書メチエ)作者: 高山宏出版社/メーカー: 講談社発売日: 2000/10メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (19件) を見る高山本を読む…

17−20世紀の観念史

昨日ビデオがおシャカになってしまったので、BDレコーダーを買うことにして(地デジ対応もそろそろしなければならないし)、朝からネットで調べもの。価格ドットコムやら何やらを巡った揚げ句、Panasonicの実売5.6万円の機種(2番組録画は不可)に決めた…

沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史

昨日、座禅会に2度目の参加。雨も降って内省的な雰囲気。だが瞑想境にはなかなか入れない。足の痛みがない分だけ、つまらない考えが泡のようにつながって湧いてくる。でもおかげでさっぱりしてよく眠れた。佐野眞一の「沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後…

トランスセンデンタル・アジール・コミュニズム

今日から入試。母親に付き添われている受験生が目に付く。「いやあ、でもK大医学部を受けるのなら俺も付き添うかも」という話になった。それにしても学生服というのは幼く見える。中沢新一の「僕の叔父さん 網野善彦」を読んだ。僕の叔父さん 網野善彦 (集英…

描きなおされたヒルベルト数学

今週は木・金と、NS大のシンポジウムに呼ばれて話をしてきた。イメージングという共通言語があったので、懇親会やティータイムでの話がはずんで、新しい知り合いが何人かできたのはうれしいことだった。懇親会に出ても、つい知った顔どうしで話してしまう方…

生きづらさの中で

佐野眞一「甘粕正彦 乱心の広野」を読む。甘粕正彦 乱心の曠野作者: 佐野眞一出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/05メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 49回この商品を含むブログ (50件) を見る満州の夜と霧 第2部。 人間はこんな生きづらい状況の中で…

大文字焼きと満州

昨晩は大文字焼きだった。近くの小学校の3階が見物のために開放されている。大文字焼きは、大、妙法、鳥居型、舟型、左大文字だが、小学校からは妙法がかぶりつきで見える。8時になるとまず大の字に火がともる。少し離れて見ると、これが送り火であること…

人類の祖先集団の実態

夏休み3日め。昨日家族が帰省したので、圧倒的に暇である。Olympicを見たり、高校野球を見たり、本を読んだり。ニコラス・ウェイドの「5万年前」を読む。5万年前―このとき人類の壮大な旅が始まった作者: ニコラスウェイド,安田喜憲,Nicholas Wade,沼尻由起…

夏の夜の怪談話

昨日の夕方、下鴨神社の御手洗祭に出かけた。神社の東に小川が流れていて、そこをろうそくをもってすそをからげて川の中を歩く。川を渡ったところにある神社にろうそくをお供えすると、一年間息災に過ごせるという祭りである。泉から湧き出た川の水が冷たく…

明治維新と戦争の実体

高橋五郎の「天皇の金塊」を読む。天皇の金塊作者: 高橋五郎出版社/メーカー: 学習研究社発売日: 2008/05メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 14回この商品を含むブログ (7件) を見る広瀬隆と同系列のいわゆる裏面史ものだが、どうもこの手の本に弱い。趣旨…