エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

3つの原理

昨日が冬至で今日は年賀状書き。でも、今年のうちにやっておくことがまだ残っているので、冬休み気分にはなれそうもない。


ローレンス・トーブの「3つの原理」を読む。

3つの原理―セックス・年齢・社会階層が未来を突き動かす

3つの原理―セックス・年齢・社会階層が未来を突き動かす

内田樹先生が激賞していたビッグ・ピクチャーが語れる未来学者の本。日本のマスコミに浸かって生活していると、「人間世界はこの先どんどん悪くなっていくばかりなのだろう」という気分になってしまうが、そういう考えを揺すぶられる。宗教市場や超人類というところまでいくと「うーん」という感じになるが、この本の未来シナリオ(2050年くらいまで書いてある)を5%くらいは信じてみたくなる。

とはいえ、たぶんこの本を日本人が書いていたら途中で止めていたと思う。中国、コリア(韓国+北朝鮮)、日本が「儒教圏」として近未来にECのようなブロックを形成する、なんていう発想は日本人にはできない。そういう意表を突く発想がところどころに顔を出すので、何となく最後まで読んでしまった、というのが本当のところか。でも読後感は悪くない。

「たしかにビッグ・ピクチャーは流行遅れかもしれない。だが、歴史はばらばらで意味がなく、未来は予測不能という見方は、あまりにも極端にすぎる。日常の歴史的出来事も、表面的には無秩序に起こっているかにみえるものの、歴史の基本となる広大な潮流、言い換えれば「深層構造」には、意味も方向性もパターンも存在する。したがって、歴史の深層構造を心得ていれば、未来のさまざまな出来事も予測することができるのだ」

「本書が示そうとしているのは、人類全体の歴史と将来も、同じ3つの座標を持つということだ。人類が誕生した日に定められた人類の年齢、性、そしてカーストの発展段階という3つの座標である。誰かの年齢、性別、カーストを知れば、その人物に関する多くのことを理解し、予想できることができるように、人類の現在の年齢、性別、カーストの発展段階を知ることができれば、人類に関する多くのことを理解し予想することができるのだ」

カースト・モデル」というのは、「時代を支配する社会階層は何か」というモデルで、人類は「精神・宗教の時代1」「戦士の時代」「商人の時代」「労働者の時代」「精神・宗教の時代2」と発展するというのが、トーブの考えである。


「「カースト・モデル」は「人類は進歩しているのか」という問いに明確な「イエス」を出している。人類は着実に進化し進歩しているのだ。たしかに、3つの非精神的。非宗教的時代の間に、現実との接点は次第に失われてきた。それでも、各々の時代は、その前の時代よりも確実に改善されている。どの時代も、人間に進化の階段を上らせ、より高く、より成熟させて、その精神的意識を向上させているのである」

「世界はすでに「精神・宗教の時代2」の革命・発展段階に入っている。これは現在の「労働者の時代」の頂点段階と重なり合っているが、この革命・発展段階が進むにつれ、私たちは「労働者の時代」を離れ、その労働と仕事中心の世界観を手放すことになる。世界は宗教性と精神性を重視するようになるのだ」


「精神カーストの革命・発展段階が終わるのは、2030年あるいは2040年頃だろうが、その頃までには大部分の労働者がこの新たなカーストに加わり、新旧二つのカーストは北半球全体で統合し、そのシステムも「精神化」されているだろう」

「グローバルな影響の一つは、世界経済のなかの製造業が安定し、成長が止まる。もう一方の影響は、宗教市場の急速な発展だ。宗教ベルトブロック、とりわけ南アジア連邦と汎セム連邦は、宗教市場の支配勢力となり、一方、北側の大国は、基本的に製造業の市場に依存する状態を続ける。宗教市場の成長と共に、宗教ベルトブロックの勢力が拡大し、逆に北側ブロックの勢力は、製造業市場の安定化とともに縮小する。このため、宗教ベルトブロックは、世界の覇権をめぐって、儒教圏、欧州、北極圏の北側三大ブロックに挑戦するほどの強大な力をつける。こうして儒教圏ブロックの覇権は長くは続かず、21世紀の半ばまでには幕切れを迎えるだろう」