エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

甦る怪物

研究は不思議なもので、進み方にかなりの波がある。1年か2年に1回くらい、何をやってもうまくいく、あるいは何を考えても上手く当たる(という気がする)ときがある。そのときにどれくらい根を詰められるかが、いい仕事をする大事な鍵だと思っているので、一緒に仕事をしている学生さんに「ここが大事だ、今が頑張り時だ」と言うことがある。

G君は今ちょうどその波が来ているようなのだが、どうも火がつかないのが傍から見ていて不思議である。個人的な事柄には干渉できない性質なので、大抵のことはスルーするつもりなのだが、最近は「それでいいのだろうか?」と思う事がある。少しばかり悩ましい。


佐藤優の「甦る怪物」を読む。

甦る怪物(リヴィアタン)―私のマルクス ロシア篇

甦る怪物(リヴィアタン)―私のマルクス ロシア篇

あの佐藤優の思想的自叙伝後編ということで、思わず買って一気に読んでしまった。時代はゴルバチョフの時代。ソ連邦崩壊の直前である。

ロシアにもマルクスにも正直格別の関心を持っていないのだが、宗教や民族の話題がこの本には頻出するのが、夢中になった理由だと思う。

「フロマートカは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』における大審問官を読み解いた。当時、アメリカでは、大審問官をヒトラーと解釈する傾向が強かったが、フロマートカはそれに反対する。ナチズムはニヒリズムに基づく革命なので、そこには人間に対する愛が不在である。フロマートカの理解によれば、大審問官は、地上に、人間が飢えと貧困から解放された平等な世界を建設しようとする『愛』に動機づけられた共産主義者なのである。」フロマートカはチェコにおけるプロテスタント神学を代表する存在らしい。中東欧の多様性には「周辺的な本質」が宿っている気がする。

「ロシア人がいう、普遍的なるものには、必ずロシアの個別利益が含まれている。ロシア人はそのことに気づいているのだが、認めようとしない」
「まどよくわからない。なぜ、個別利益をそのまま要求できないのだろうか」
「実は、その点については僕もよく説明できない。ただ、ロシアは道義国家であって、全人類の苦難を背負っているという発想が、ソ連国家にも継承されていることは間違いない」
これはかなり意外な見方だった。これはロシア正教からくるものなのか、ヨーロッパという世界の中心からの疎外感からくるものなのか興味がある。