エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

人類の祖先集団の実態

夏休み3日め。昨日家族が帰省したので、圧倒的に暇である。Olympicを見たり、高校野球を見たり、本を読んだり。

ニコラス・ウェイドの「5万年前」を読む。

5万年前―このとき人類の壮大な旅が始まった

5万年前―このとき人類の壮大な旅が始まった

5万年前に150人で東アフリカを出て世界中に広がった人類の祖先集団の実態を詳細に説いた本。結構意外な知識が詰め込まれていて感心しながら読んだ。言葉や社会性、思考能力の始まりについても議論があり、脳科学の立場からも面白く読める。

「遺跡と違って、上部旧石器時代末期の人々の考えや心を復元することは不可能だが、定住生活を送るには狩猟採集民にはなじみのない概念を発展する必要があったように思える。たとえば、財産、価値観、数、重さ、測定、数量化、物資、金銭、資本、経済。どれも現代人には当たり前の概念でも、あちこち移動する狩猟採集民の生活で重要になることはめったになかった、
では、抽象的思考や象徴的解釈や文字を書く能力はつい最近発達したのだろうか。
メソポタミアの古代都市バビロン、エジプト、パキスタン北西部のハラッパ、中国最古の王朝「殷」などが文明化した時代と人類の祖先集団の時代との開きは、実に4万5千年だ。5万年前に行動の上でも「現代的な」人類が進化したのに、その現代性を実行に移すのに4万5千年もかかった理由はなんだったのだろうか。このギャップは「ホモ・サピエンスの逆説」とも呼ばれている」

「乳糖耐性の出現に見られるように、進化は現生人類がアフリカを出発した5万年前の時点で止まったわけでなく、ヒトゲノムを作り直し続けている」
「宗教が生まれた年代を特定することはできるのだろうか。意外にもできるのである。宗教を含めて現代人の行動のほとんどは、5万年前にアフリカから分散する以前の人類の祖先集団に存在していたはずだ。宗教儀式には踊りや音楽がつきものでも、聖なる真理を述べなければならないので言葉を使う。そのため、言語が出現する前に宗教が誕生することはなかっただろう。人類が完全に人間の言葉を話せるようになったのは、アフリカから離散する直前だった。この現代的な言語の発展を待って宗教が生まれたとすれば、宗教も5万年前の直前に出現したに違いない」

「人間の骨は上部旧石器時代の祖先に比べて華奢になり、性格もそれほど好戦的でなくなり、信頼しあうようになって社会の結束力が増した。さらに、人間には選択能力がある。相手を絶滅させることより、交渉する事を選ぶようになった。この5万年以上にわたる人類進化を考えると、人類はだいぶ進化したという思いが強い。人類の選択能力が、先の読めない進化の力に一つの方向を与えることになったのである」