エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

アット・ザ・ヘルム

おとといの晩に学生時代からの友人Iさんと百万遍で3軒はしごして1時過ぎまで飲んだ。Iさんは私達の世代を代表する物理学者の一人で計算機物理学の世界ではトップエリートさんだ。その彼が生ビールで乾杯するやいなや「いや実は今、生命とは何かを考えているんだ」と言い出したので大変驚いた。生命をシンボライズするとある分子機械を計算機上で作ってしまって...というあたりからはじめて、ミーム、意味論と統語論のずれからくる生命議論の不毛性などなど、えんえんと話し続けた。こうなるとお酒は議論のエンジンとなり、話は収束しなくなる。うん、もっとクールな議論をしようよ、ということで次回はT大に出かけて第2ラウンドということになった。


キャシー・ベイカーの「アット・ザ・ヘルム」を読む。

アット・ザ・ヘルム―自分のラボをもつ日のために

アット・ザ・ヘルム―自分のラボをもつ日のために

ベイカーはロックフェラーの故花房秀三郎研究室の出身。花房スタイルを中心に多くのPIにインタビューして、自分のラボをまさに持とうとしている人たちのために書いたマニュアルがこの本。研究者ならいくつものところで考え込まされる良書である。

基礎をつくる・共同研究の理念の節
フランシス・クリックは、ノーベル賞を受賞したときのBBCのインタビューに答えて、科学の世界で優れた共同研究をする場合、”礼儀正しさ”は毒物に等しいと語っている。共同研究に必要なのは、徹底した率直さと、必要ならば”無作法”だ」
これは日本人の研究室ではことに難しい。だがまれに実現している環境もある。

基礎をつくる・続けていくにはの節
「人脈 同じ分野を研究している友達と連絡を絶やさずにおくのは、その分野に関する情報を手にいれる、最高の方法である。知人に電子メールや電話を定期的に送り、質問したり、自分の実験について話をしたりする習慣をつけておく」
これもなかなか難しい。同じ分野をやっていると潜在的な競争者になってしまう可能性があるので、それと兼ね合いをつけられるためには、他人にはできない独自の技術を持っていたりする必要がある。

研究を支える態勢を整える・研究室における倫理の節
「自らが手本とな。倫理について研究室のメンバーに教えるのに最もよい方法は、PIがその倫理にしたがって見せることです。自分は別という考え方は厳禁です。敬意と誠実さを他人に期待するならば、自らがそうすべきです。
・つねに言行一致を目指す
・研究室の全員に対して敬意を払い、思いやりをかかさない
・自発的に研究室のメンバーの手助けをする
・慎重に
・ほかの研究室がやっている研究をばかにしない」
これはいちいちもっもとだけれども、これを律儀に守るとかなりストレスがたまる。もちろん、ベイカーはストレスについての対処法も書いている。

望みどおりの研究室にするためには、まず目標と5年計画が必要。こう書くとその辺の自己啓発本と一緒にみえますが、この本は細部がいいです。