5日間ほどイギリスから共同研究者が滞在していっていろいろ議論ができた。scienceの話はもちろん大変面白かったが、ベネチアの名家(foundersではないが50人委員会のメンバーらしい)出身という彼の話を聞いていると、ヨーロッパの上流階級の人間がどういう価値観で生きているのか多少は感じ取れた気がする。もちろん、うちのラボの女性たちはダンディさにすっかり熱を上げていた。
マーク・ハッドンの「夜中に犬に起こった奇妙な事件」を読む。
- 作者: マークハッドン,Mark Haddon,小尾芙佐
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/06/30
- メディア: 単行本
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アスペルガー症候群の15歳の少年の内面をミステリの形を借りて描いた佳作。裏表紙には「アルジャーノンに花束を」をしのぐ感動作とあったが、「暗闇の速さはどれくらい」につながる作品という方がしっくりくる。
http://d.hatena.ne.jp/tnakamr/20081230/1230598127
感動というよりも、人間の心のありようにいろいろあることが時に痛みを伴って感じられる。
「シャーロック・ホームズは驚くほど自由自在に自分の意識を切り離す能力を持っている。
これもまた僕に似ている。なぜかというとぼくは、数学の問題を解くとか、アポロ宇宙計画やホオジロザメの本を読むとか、本当に興味のあることをやっているときには、ほかのことには何も気づかなくて、お父さんが夕食だから来なさいと呼んでもぼくには聞こえない。そしてこれは、ぼくがチェスがとてもうまい理由である。なぜかというとぼくは自由自在に自分の意識を切り離してチェス盤に集中するからで、しばらくすると相手の人は集中をやめて鼻をぼりぼりかいたり、窓の外を眺めたりして、しまいにまちがいをして、僕が勝つのだ」
「僕の記憶は映画のようだ。僕がものをおぼえるのがとてもうまいのはそれが理由だ、この本に書いてきた会話とか、ひとが何を着ていたとか、ひとがどんなにおいをさせていたかというようなことだ。なぜかというとぼくの記憶には音声記録帯のような臭気記憶帯もあるからだ。・・・
ほかのひとたちも頭の中に画像を持っている。しかしそれは僕らのとは違う。なぜかというとぼくの頭の画像は全部実際に起こったことだ。しかしほかのひとたちの頭の中にある画像の中には、現実のことではなく、じっさいに起こったことではないことが多い」