今日は台風のせいか何とも蒸すなあと思いながら仕事をしていたが、帰ってニュースを見たら兵庫や岡山で大変なことになっている。そういえば暑さを実感するまもなく立秋になってしまった。
マイケル・シェイボンの「ユダヤ警官同盟」を読む。
- 作者: マイケルシェイボン,Michael Chabon,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/04/25
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2008年のヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞のSF三冠を達成した作品。いわゆる歴史改変SF&70年代風のハードボイルドという異色の設定。歴史改変SFといえばまずフィリップ・K・ディックの「高い城の男」の名が挙がるのだろうが、ほぼその水準を達成している。
舞台は、アラスカ州の片隅に作られたユダヤ人の自由居留地シトカ。この世界では、イスラエルは1948年にアラブに押しつぶされており、世界中からその猫の額のような土地にユダヤ人が集まって暮らしている。時代設定は2007年。その居留地はあと2ヶ月でアラスカ州に戻されることになっている。
驚くのは、その現実ではない世界が緻密な質感と豊かな感傷を持って描かれていることだ。
「メンデルの手は柔らかで温かく、やや湿っていた。いわば永遠の小学生の手だった。リトヴィクはその温かさと柔らかさに、なぜか抵抗を覚えた。自分が発した翼竜の鳴き声と、言葉をしゃべれたという事実にぞっとした。このメンデル・シュプルマンという男には何かあると知って、怖くなった。このぽちゃぽちゃした顔、趣味の悪いスーツ、神童の微笑み、内心の怯えを隠そうとする勇気。そうしたものが、リトヴィクに久々の発語を促したのだ。リトヴィクは、カリスマ性というものは、説明は困難だがちゃんと実在する性質であることを知っていた。それはある種の幸運とも不運とも言える人間がはなつ化学的な火だ。どんな火も才能や道徳とは無関係で、善や悪、力やゆうえきさとはつながらない。メンデルの熱い手を握りながら、リトヴィクは自分の戦術が理にかなっているという手ごたえを感じた。ロボイが健康を回復させたなら、メンデルは数百人の武装した信者や新しい土地を求まる三万人のハシディズム武闘派だけでなく、シトカを追われるユダヤ人全体を鼓舞し導くことができるかもしれない」