エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

上皮間葉転換とがん幹細胞

上の子は1年半くらい前から編み物教室に行っている。夏くらいからコンクールに出すんだといって、変わった靴下を編んでいた。いろいろな飾りがついていて、それぞれことわざを表している(「猫に小判」とか)のが本人苦心のアイデアらしい。

それが昨日知らせが来て、優秀賞(1等賞)をとったらしい。コンクールは、京都一円か関西一円かよくわからないのだが、表彰式があって、受賞スピーチもするらしい。上の子は、成功体験が少なくて、のんき者すぎると苦にしていた嫁さんは大喜びで、早速ケーキを奮発してお祝いをした。子供が評価されると親もいい気分がするものだ。


研究室での文献紹介で、Aさんがなかなか面白い論文を紹介した。5月にCellに載ったがん研究の大御所ワインバーグのところの仕事だ。題名は"The Epithelial-Mesenchymal Transition Generates Cells with Properties of Stem Cells"。

Epithelial-Mesenchymal Transition(EMT, 上皮間葉転換)というのは、がんの浸潤や創傷治癒のときに起きる現象で、文字どおり上皮細胞から間葉系の細胞に形も運動性も変換する。がん幹細胞というのは、前にこのブログでも触れたが、 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%82%93%E5%B9%B9%E7%B4%B0%E8%83%9E5,6年前から火がついてがん研究のパラダイムを塗り替えようとしているニューコンセプトだ。

ワインバーグ達の論文は、不死化した乳腺上皮細胞を用いて、EMTでできた間葉系細胞ががん幹細胞性を持つこと(マーカー蛋白質の発現、sphere formation、ヌードマウスでの腫瘍形成能で見ている)を示している。

がんの80%は上皮細胞由来なので、がん幹細胞を思い描くとき、何となく上皮細胞の中に幹細胞ないしprogenitorを考えることが多いと思うが、今回の仕事はそうした思い込みとは食い違う結果となっている。いろいろな意味で今後、議論を呼びそうな論文だ。

いずれにせよ、がん幹細胞のコンセプトが出てきたことにより、がん研究は曲がり角に来ているというのが個人的な感想なので、この仕事の今後の展開を注意しておきたい。