エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

ゆらぐ脳

月・火・水と神戸ポートピアホテルでゲノム特定研究の班会議にでかけた。発表5分、討論2分の顔見世興行なのだが、発表時間が短いほどうまい下手はよくわかる。3日で200人ほどは聞いたろうが、特に驚く話はなかった。発表会場外でのおしゃべりの方が楽しいのはいつもと同じ。

特定研究も新規募集は停止され、来年度の募集からは制度が変わるわけだが、新制度のおおよその内容がアナウンスされた。新領域創造研究(?)だったかな。癌、ゲノム、脳という別扱いの3本柱がなくなると、1領域の予算が縮小される以外はあまり変わらない感じを受けた。本当に新領域の創造に重点を置くのであれば大変革だが、たぶんそういう名前をつけつつ、既存研究に予算を配分するのだろう。しかも、領域ごとの予算枠は、(省庁の予算枠が変わらないのと同じで)今と変わらなかったりして、というようなことをあれこれ噂する。何にせよ狭き門になるのは嫌だな、というのがその場の雰囲気だった。

ポートピアホテルはさすがシティホテルとして作られただけあって内装は立派で、ベッドもしっかりしていて良く眠れた。でも周りは以前よりさびれているような気がしたのだが。

あの池谷裕二(+木村俊介)の「ゆらぐ脳」を読む。

ゆらぐ脳

ゆらぐ脳

池谷裕二脳科学の俊才として有名だが、最近は少し以前と言うことが変わってきたと感じていたのだが、この本を読んで留学先での仕事を境に、確かに考え方ががらりと変わったことをインタビューで説明している。まずは要素還元主義から非還元主義への転向。また仮説にドライブされる効率的な研究から好奇心にドライブされる「仮説なんて持たずにとにかく見てみよう」というスタイルへの転向。

非還元主義で仕事をするというのは度胸がある。正直うらやましい。超高速のカルシウムイメージングという技術的裏づけがあるこそ、学生にそういう仕事をさせられるのだろうが、そういう研究は楽しいだろうな。顧みて自分には無理だと思った。2年で修士論文。3年で博士論文というのになかなか「とにかく見てみよう」とは言いにくい。やっぱり俊才だ。

分子生物学の方法論は明快で分かりやすいけど、そこから得られる結論にはどうも私は腑に落ちなくて...そんなところから、私は脳の神経細胞のシステムを、できるだけ分解を行わない方向で研究しているのです。
ただ、脳のシステムを分解しない方向で研究をする、なんて、簡単に言いましたけど、問題は、分解をしないとしたら、何をすればいいのか、ということになるのです。
このような時に、改めて考えなければならないのは、
「『分かる』とは、ナンだろう?」
でしょう。そのそも「分かる」の仕組みが分からなければ、「脳を分かる」に辿りつけないのかもしれません。
生理的に「分かった」と感じるためには、どんな条件を満たせばよいのでしょうか。脳はどんな時に「分かる」と感じるようにデザインされているのでしょうか」

「まず、「合理主義は非効率的」と気づきました。
目的以外は捨ててしまう「合理主義」は、突き詰めたら「自分の分野の知見」と「異なる分野の知見」の間の「つながり」や「派生」に気づけなくなる袋小路にほかなりません。「派生」に気づけないというのは「発見」がなくなることですから、むしろ、合理主義はサイエンスの追求においては失うものが大きいと考えるようになりました」