エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

配置と抵抗

昨日、Maker Conferenceに行ってきた。息子がはんだづけを教わるのを後ろでみながら「教え方のうまい人だなあ」とすっかり感心してしまった。


ベジャン&ゼインの「流れとかたち」を読む。

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則


理論とはひとつの数式で全てを表せることもある(そういう部分もある)のだろうが、ほとんどの場合は多面体だと思う。
私の場合、量子力学のひとつひとつの方程式が何を意味しているのかが正直わからない(それでも計算はできるので単位は取れる)でずっともやもやしていたが、いろいろとつきあっているうちにだんだんその多面体的な部分に気がつくようになって、取りつく島ができたと感じることができるようになった。

この本は書店で何度か手に取っては、「うーん、とんでも本かもしれない」と思って面倒になって書棚にもどしてしまっていたのだが、どうも気になって結局買って読んでしまった。かなりいい本だと思う。考え方のヒントとしてはいいと思うが、理論としてはどうだろう、そういうことを考えるうちに、上のようなことに思い至って、これもまた理論だろうと、とりあえず思っているところだ。


この本で主張されているのは、「流れとかたち」についての第一原理として、下記の「コンストラクタル法則」が成立するというものだ。

「有限大の流動系が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置(configuration)は、中を通過する流れをよくするように進化しなくてはならない」


なぜこんなものが存在しなければならないかはなかなかすんなり呑み込めない(言い換えると、なんで現象論的ではいけないのかということ)のだが、ひとつはこういうことらしい。

「当時は認識されていなかったが、熱力学のこれら2つの法則(熱力学の第一法則と第二法則)は、自然の完全な説明にはなっていない。自然はブラックボックスからできてはいないのだ。自然界の「箱」はみな、配置で満ちている。それに(河川、血管などの)名がついていること自体が、外見、パターン、あるいはデザインがある証拠にほかならない。熱力学の第二法則はものが「高」から「低」へ流れるはずであるとしているのに対して、コンストラクタル法則は時がたつにつれて流れやすくなるような配置で流れるはずであるとしている」


・低速での近距離の流れと高速での遠距離の流れがいっしょに機能することで、全体の流れの効率が良くなる。
・流れが低速で近距離のときは、拡散するのがふさわしいが、流れが強まったときには流路を持つ組織化された構造のほうが優る。
・不完全性は不可避のデザインであり、デザインにとって必要なものだ。良いデザインにおいては、流動系全体に共通する不完全性がほぼ一様に分布している。
・熱力学的な不完全性どうしの釣り合いをとり、さまざまな抵抗を均衡させて合計の影響を減らす配置をうみだすという基本的な傾向によって結びついているのだ。
・そのカギを握るデザイン原理は、高速での遠距離の移動にかかる時間と低速での近距離の移動にかかる時間をほぼ等しくすべきであるというものだ。


「決定論的か非決定論的か」であったり、「進化をこういう具合に見てしまっていいのか(生物学をやっているものとしてはどうも誤読と思える部分もある)」などいくつもあやはあるのだが、アイデアを拾ってくるという意味ではやはり役に立つ本だと思う。