エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

衆院選の21世紀と数学の20世紀

衆院選の結果が出て、民主党が308議席を獲得して圧勝。私は民主支持だが、ここまでの大勝がいいことなのかと不安もある。ただ、政権運営に慣れてない民主党がそれなりにやっていくためには、この数が力にあるとも考えられるので、いいことかもしれない。自民党にどれだけの復元力があるのかが大事なポイントになるだろう。


ピエルジォルジョ・オディフレッディの「数学の20世紀」を読む。

数学の20世紀―解決された30の難問

数学の20世紀―解決された30の難問

代数学(圏とか、不動点定理とか)が気になっている人にはおすすめの本。厳密性はとりあえず置いていて、現代数学の全体像が得られるように、ヒルベルトの23の問題をめぐって20世紀前半の数学を、そしてフィールズ賞をめぐって20世紀後半の数学をざっくりまとめている。ただし、深さを求める人は不満かもしれない。

集合と数学基礎論について
「結論として、集合論は専門の数学者に2つの利益―どちらも本質的な、しかしどんな特定の公理化からも独立な利益―をもたらしたように思われる。一方で、私達は、ヒルベルトが「誰も私達を追い払う事のできない、カントールによって創出された天国」と述べた無限集合の理論を手に入れた。そして他方で、私達は、現代的な数学の実践によってつくりだされ、ますます抽象的になる諸概念を定式化するための重宝な言語を手に入れたのである」
「ローヴァエの考察とは完全に異なる代数幾何学の考察から出発して、グロタンディクも、独立に、トポスの理論に到達した。こうしてこの理論は多くの分野のひとつの収束点であることが判明し、数学者たちは、集合論が数学の一般的基礎として役立つのを妨げている理由が何であるかを明らかにすることができた。簡単に言えば、集合は、その論理が古典的であるトポスを形成しており、よって、たとえば、位相幾何学代数幾何学の複雑さを説明するには単純すぎるというわけである」

不完全性定理の良い表現
ゲーデルは、整数論を含みいかなる理論の無矛盾性もその理論自身の範囲内で証明することはできないということを示した。言い換えると、数学の基礎を装うどのような理論も自分の正当な存在理由を見出すことは不可能であり、必然的に外部体系に正当化を探し求めなければならない、というのである。とりわけ、(整数論を含み)どのような無矛盾な体系であれ、その言語で表現可能なすべての数学的真理がその理論の中で証明されうるという意味で、同時に完全ではありえない―さらに、それら証明されえない真理のひとつがまさにそれ自身の無矛盾性なのである。こういう訳で、ゲーデルの結果は不完全性定理とよばれた」

微分位相幾何学
「ドナルドソンの仕事の興味深い側面は、数学的結果を得るための物理学の数学的使用である。これらの方法は、あとで論ずるようにエドワード・ウィッテンの仕事で頂点に達したひとつの傾向の口火を切った。要するに、ドナルドソンは、電磁気に典型的なマクスウェル方程式および群U(1)を、電弱理論に特徴的なヤン−ミルズ方程式および群U(2)と取替え、幾何学的道具として最小解(インスタントンとして知られる)を用いるのである。これはひとえに、異なる群―たとえば量子色力学に典型的な群SU(3)―をもつ以外は、同じ方程式を同じように使用することによって、他の結果を得るという可能性を示唆するのである」

カタストロフィー理論
「応用の観点からは、今日、カタストロフィー理論は2つの方法で越えられてしまった。ひとつは、イリヤ・プリゴジン散逸構造の理論と不可逆現象の熱力学によってであり、これに対して彼は1977年にノーベル賞を与えられた。もうひとつは、カオス理論と不安定系の力学によってである」

量子力学の公理化
ヒルベルト空間Hと関数空間L2が実は同じものであるという事実は、リースとフィッシャーのいわゆる表現定理の本質である。―フォン・ノイマンは、空間Hまたは空間L2の観点からヒルベルトの考えを再定式化した。前者の場合に量子力学ハイゼンベルク版が得られ、後者の場合にそのシュレーディンガー版が得られる。その上、両者の間の等価性が、リース=フィッシャーの表現定理から当然の結果として出てくるのである」

一般均衡理論
「均衡の存在についてのフォン・ノイマンの証明の本質的な特徴は、古典的微分学の手法から位相幾何学へ―動的な系から静的な系へ―注意を切り替えていることであった。このような新しいアプローチを通して、またとくに、1941年に角谷静夫によって証明されたブローエルの不動点定理の拡張を用いる事により、ケネス・アローとジェラール・ドブルーは1954年に、ワルラスの方程式に対する均衡の存在を証明する事に最終的に成功した。そこでは需要供給の法則は次のように述べられている。それぞれの商品の価格における変化率―よって、時間に関してその導関数―は、需要過剰(すなわち、その特定生産物に対する需要と供給の差)に比例する」

形式言語理論
「トゥエの文法を認める言語は、ほかならぬ、コンピュータ用の普通のプログラミング言語ならどれによっても生成されうる言語である、言い換えれば、単純な文法的生産物は、最高度に複雑なコンピュータ・プログラムがなしうるすべてのこと、とくに、形式言語または機械言語のすべての可能な型を記述するのに十分である、ということである。」

最後に数学とコンピュータについて
「電子計算機は、チューリングの機械と、マカロックとピッツのニューラルネットワークの組み合わせの、実用的実装でしかない。後者は前者に最も基本的な論理決定ができる脳を提供し、そのおかげでこの機械は、より高次の論理を要求する決定を除いて、すべての機械的計算を実行することができるのである」
人工知能プロジェクトには、そのもっとも成功した領域においてさえ、哲学的な限界があることを示している。つまり、人工知能は人間の思考の結果を模擬することには時折成功してきたが、思考の過程を再現することによって思考を模倣することができたことはいまだかつてないのである」