エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

不均衡進化論

M研のGTP loading assayのプロトコールを熟読したのだが、どうも細部に自信がもてず、白金のK大まで教わりに行くことにした。「絵解きシグナル伝達入門」で有名なH先生とゆっくりお話しするのはほぼ10年ぶり。歳月の流れの速さにびっくりする。


古澤満の「不均衡進化論」を読む。

不均衡進化論 (筑摩選書)

不均衡進化論 (筑摩選書)

いろいろ興味深い。

「現在地球上に見られる生物は例外なく連続鎖/不連続鎖・併用複製様式を採用しているという事実から、生物にとって何か重大なメリットがあったと考えるのはごく自然です。この謎解きが、不均衡進化論の基本的コンセプトにつながります」
岡崎フラグメントを使った不連続鎖の方がスムースに進む連続鎖に比べてエラーが多いはず、というのがこの不均衡進化論の発想の元になっている。

「不均衡進化論では、世代をいくら重ねても遺伝子型の元本は保証されていて、しかも多様性の創出が実現されていることです。元本さえ保証されていれば、多様性をどんどん拡大しても、集団としては消滅する危惧はほとんどなくなります。この「元本保証された多様性の創出」こそが、不均衡進化理論の唯一にして最大のコンセプトであるといっても過言ではありません」

「すべては不均衡モデルがもつ「元本保証された多様性の創出」と「変異の閾値の上昇」という二つの性質に帰することができます。たとえば、一番低いP1の頂上に達した大腸菌もそこには安住せずに、複製して生じる一方の子供にそのときのベストの戦略(遺伝子型)を担保させておいて、もう一方の変異が入った子供を”斥候”に出してさらに高い山がないか常に探しているのです。しかも、変異率を自由に上げ下げできますから、斥候が幸運にも最高の山P6の頂に到達すれば、変異率を適当に下げてゆったりとした生活を送ればよいことになります。このダイナミックな適応度地形の探索行動は、動的な地形にも十分田王できると想像できます」

「不均衡進化論のアイデアが浮かんでから最初の論文の受理までには実は3年もかかりました。その理由は、もちろんレフェリーが反対したからです。その反対理由はただ一点、『不均衡進化論は進化遺伝学的熱力学の基本法則にもとる』ということでした」
Furusawa and Doi (1992) J. Theor. Biol. 157, 127-133
でも、reviewも印刷も遅かったあの頃のJTBで3年ならそんなに悪くないと思うのですが。
たぶん最初はNatureに送ったんですよね。