エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

宇宙をプログラムする宇宙

H先生への手土産に惣誉を取り寄せることにする

セス・ロイドの「宇宙をプログラムする宇宙」を読む。

宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?

宇宙をプログラムする宇宙―いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?

非常に刺激的な本。

エントロピーとは、原子や分子のランダムな運動(小さすぎてわれわれには見えない)を記述するのに必要な情報のことだ。エントロピーは、われわれの目に見えない物理系に含まれる情報である」

「はたしてエントロピーとはなんなのだろうか。それは原子仮説が答えてくれる。熱はエネルギーの一形態であり、エントロピーは熱と関係している。物体が原子からできているとすれば、熱の正体は単純に説明できる。熱は原子の振動のエネルギーにほかならない、ということだ。そうだとすれば、エントロピーもまた単純に解釈できる。原子の運動を記述するには、数多くのビットの情報が必要だ。そして、エントロピーと呼ばれる量は、原子の振動の様子を記述するのに必要なビットの数に比例することになる」

マクスウェルの悪魔に関する問題が、物理法則は情報を保存する性質を持つという事実だけから解決できるとしたら、なぜこの問題は過去一世紀半にわたってこれほどの混乱を巻き起こしてきたのだろうか?この問題は、情報とエントロピーをどう区別するかにかかっている。エントロピーとは、見えない情報、無知、利用できない情報であった。だが、”見える”と”見えない”の区別は、誰が見るかによって変わってくる。見ることでエントロピーを減らすのは、確かに可能なのだ」

情報理論的なエントロピーが理解しやすいことはこの記述でもよくわかる。ところが、この考え方は、時間対称な力学系を前提としているので、このエントロピーは未来にむかって増えるのと同様に過去にむかっても増えてしまうはず。あるいは違うのか?

「では、波動関数のうち関係のない部分は、いつ無視するのが正しいのだろうか?その答えは、ロバート・グリフィスとロラン・オムネスによって詳細に論じられた。波動関数の他の部分を無視できるのは、それがもはやわれわえに影響を及ぼさなくなった瞬間なのだ」

これは量子力学の解釈問題のかなり上手い解決法。多世界解釈を上手く回避できる。

量子コンピュータでは、アナログ計算とデジタル計算の区別がない。量子は定義から言って離散的で、その状態は、近似することなしにキュビットの状態と直接対応させられる。だが、キュビットは波動の性質を持っているので、連続的でもある。連続的な重ねあわせ状態をとることができるのだ」
ああそうなのか、納得。