エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

研究者になるために、人間になるために

うちの大学では、この3月から国際共同人材育成機構という若手研究者の育成プログラムが走っている。20台後半−30台前半の若手研究者10名に、場所と研究費500万円を与えて自由にやってもらおうというプログラムだ。前回のプログラムでは、5年の任期後に全員が次の職を見つけるという快挙を遂げたので、今回も期待が大きい。昨日今日と、キックオフのシンポジウムがあったので、仕事の合間にちらちら見に行った。

博士号とりたての人もいれば、すでに一流誌に複数の論文があって「何でここにいるの?」というハイレベルの人までいて、かなりのバラエティ。たぶん若い人は大学の有力教授に何らかのコネがあり、年上の人は、実力で選ばれたせいでバラエティが生じたのだろう。500万円の研究費と、Max2人の人手では何らかの後ろ盾がないと仕事にならないのは事実だろう。でもシミュレーション系の人もいて、彼らは500万円あったら左団扇なので、内部でどうバランスをとるのか。前回のプログラムでも、何だか内輪もめがあったという話なので、そのあたりをリーダーのK先生がうまく差配されるのだろう。K先生は人を育てるのがうまいというのは、医科研時代からの定評だ。

松岡正剛の「神仏たちの秘密」を読む。

神仏たちの秘密―日本の面影の源流を解く (連塾方法日本 1)

神仏たちの秘密―日本の面影の源流を解く (連塾方法日本 1)

連塾という公開講座を活字化した「衝撃の日本論」というのが帯の文句。なるほどいつも以上のセイゴウ節をたっぷり味わえた。

第一部は日本という方法、第二部は神話の結び目、第三部は仏教にひそむ謎。特に読ませるのは第三部だ。

「これがいわゆる「悟り」ですが、何を悟ったかというと、さきほども言いましたが、「一切皆苦」ということを悟ったんです。人間は苦しむものだが、その「苦」は捨てられるものじゃない。捨てるのではなく、むしろそれを受け入れて、そのうえで自身をハイパーにしていったほうがいい。そうすれば気持ちが落ち着くというのです」
「「空」は、ナッシングとか非在とかいうことではなくて、どんなに気になることも、そういうふうに思える自分を空じていくということです。さきほどブッダの「一切皆苦」は苦を捨てるんではなくて、それを受け入れてハイパーにすると言いましたが、これは正確には、苦を空じるということなんです」
「ここです。すべての夢は結局、覚めていないと見えない。覚醒しないと夢が見られないということ、ここが仏教なんです。
 西行に「春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり」という、すごい歌がありますね。ようするに、またたきするよりも短い刹那のなかに永遠を感じるためには、覚醒していなければならないんですよ」

どきっとしたのは、このくだり。
ジャン・コクトーは「私が一番嫌いなのはオリジナリティだ」と言っていますが、これは、オリジナリティが競争と差別の上にばかり成立するからです」
この発想は、進化論が芯にまでしみこんでしまっている理系人間からは出てこないと思った。進化論は事実だが、人間になるためにはあえてその外へでなければいかないということだと思う。