エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

One-day experiment, One-year analysis

今日は医学部でRutgers大学の坂田秀三さんのセミナー。タイトルは「聴覚野における神経集団活動の層構造」。坂田さんはSwingy Brainのブログで有名。最新の電気生理実験を勉強がてら、顔を見に行く。電気生理の素人には、シリコンファイバーでの多点同時記録というのは「ああもうこんなことができるんだ」と新鮮だった。2時間の濃いセミナーでなかなか面白かったが、冒頭で宣言された”functional structure”まではまだまだ距離があるとも感じた。

坂田さんのボスの口癖は"One-day experiment, One-year analysis”だそうだ。うちの研究室も活性イメージングをしているが、「半日実験、1日解析」くらい。これが、一分子イメージングの楠見研究室だと、「一日実験、一月解析」くらいになるらしい。電気生理の多点同時記録はこれがもう一桁上がるわけで、話だけ聞いていると、既に半分以上wet jobではなくなっている気さえする。坂田さんは、「解析はきりがないです。すぐにendlessになります」と恐ろしいことを言っていた。

山口昌男著作集1「知」を読む。

山口昌男著作集〈1〉知

山口昌男著作集〈1〉知

お目当ては、高山宏が激賞していた「本の神話学」。万華鏡のようでもあり、迷宮のようでもあり、200頁余りの文章なのに、とてもそうは思えない。ワイマール文化、ユダヤ人、モーツァルト、道化、ルネサンスカバラ。この連打が山口昌男なのだろう。

あるいはフーコーを連想させる「文化と狂気」。
「これまで論じてきた文化と狂気の関わり合いに関するさまざまの事実は何を示すであろうか。まずわが心にとめなくてはならないのは、我々にはもはや、日常的世界の整合性の上のみに足場を持っているいわゆる合理性の言葉で、世界を把握することが出来なくなってるということである。もちろん、こういったことは気にもとめなければ表面的には、何も都合の悪いことではない。だが合理性にもとづいて把握されている世界と、我々が実際に、意識・無意識・感覚を通して把握している世界との間には、日々に微妙なずれが生じている」

あるいは逆説に満ちた「アマチュアの使命」。
「ヨーロッパの思想史を貫く核として、プラトン=新プラトン学説と、キリスト教自然法の思想と歴史主義を挙げることが可能であろう。そして前者が中世哲学における論理の彫琢という作用によって思想の骨格を構成したとすれば、後者は歴史主義を媒介として人間=社会の概念の拡大という作用によってヨーロッパ思想の肉付けを行ったと言いうる」

林達夫山口昌男高山宏と結んでみると、スーパー知識人ともいうような人脈が見えてきて、興味深い。