今日は奈良先端大のS先生と3ヶ月ぶりくらいに共同研究の打ち合わせの予定。S先生とは馬が合う。考え事をする仕方が似ているのだと思う。
その点で、研究者は2つに分かれると思う。一方は、discussする相手を必要とする。時間をかけて徹底的に議論する事で自分の意見を磨いていく、その過程でアイデアを出そうとする。他方は相手を必要としない。自分の内部に沈潜して想を練り、部下には最小限の言葉で自分の意見やアイデアを伝達する。
実はうちの教授は典型的な後者で、私は最初から前者だ。なので、うちの教授の下についてしばらくは当分怒られた。「もっと考えて自分の意見を明確にしてから学生と話さないとだめだ」「先に結論を言ってくれ」など。最初はかなりへこんだが、人間なれるもので、最近は、相手にあわせて2つのモードを使い分けられるようになった。どちらのタイプがより優秀と言うことでもないらしい。うちの教授が私淑しているT先生は、間違いなく天才級だが、discussionが長いことでも有名。助教をつかまえて2時間でも3時間でも話すのはざららしい。
ポール・ディヴィスの「幸運な宇宙」
- 作者: ポール・デイヴィス,吉田三知世
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2008/02/21
- メディア: 単行本
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宇宙をつかさどる物理学のパラメーターが恐るべき精度で生物・人間が生きられるように最適化されているように見える(ゴルディロックスな、と言うらしい)のはなぜか、というのがこの本のテーマだ。
A.ばかげた宇宙:宇宙がこのようであるのは(ゴルディロックスな)のは偶然である。大部分の科学者がこの見解に与する。
B.唯一の宇宙:万物を説明できる理論があり、それから必然的に今ある宇宙がひとつだけできたのだ、という立場。
C.多宇宙:最近はやりの考え方。長所は、宇宙が不思議なまでに生物に適するように微調整されているのはなぜかという問いに対して、自然で簡明な説明を提供してくれる事だ。生物に適さない宇宙は、圧倒的にたくさん生まれるが、そのような宇宙は定義からして生命を持つことはなく、したがって観測されぬままである。
D.インテリジェントデザイン:宇宙は神が創った。
E.生命原理:この理論は、宇宙の生物適合性は、宇宙/多宇宙を生命と心に向かって進化するよう制約する、包括的な法則もしくは原則に由来するものだとする。この見解の短所は、これが目的論だということだ。
F.自己説明する宇宙:最初の創造者の問題を避けるひとつの(唯一の)方法は、閉じた説明ループもしくは後戻り因果関係を含むモデルである。自己完結し、自己説明し、自己創造する宇宙である。
G.偽宇宙:わたしたちはシミュレーションの中で暮らしており、わたしたちが現実世界とみなしているものは、巧妙に作り上げられたバーチャル。リアリティーだという立場である。「マトリックス」の世界である。
どれが正しいのかは読んでもわからないように書かれているが、ポール・ディヴィスが肩入れしているのは、EとFだと書かれている。ただその理由はあまり説得力があるものではない。
私が驚いたアイデアは、マックス・テグマークの「すべてが存在する」というアイデアだ。「どの数学的構造もひとつの並行宇宙に対応する」「どのような系も、どこかに存在する物理的リアリティーに対応している」というのは究極の単純さで、「オッカムの剃刀」からいけばこれが正解であってもおかしくないと一瞬思わされてしまった。
「最終的な万物理論は、単にすべての物理学を統合するのみならず、物理学と数学に対し共通の説明を提供しななければならないだろう」という言明は長く続く残響を持って聞こえる。とりあえず、物理学と数学が一緒になってしまったら、それを勉強する学生はえらく大変だろうな。