エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

これは魂かって?

学術振興会の奨学生応募の季節が来た。250万円x3年なので学生さんにも気合が入る。連休中にできあがった第一案を学生さんが持ってきたので、午前中いっぱいを使って推敲した。

資料を見ると、昨年のDC1の採択率は何と28%強もある。こんなところにお金を使っていたのね、というのが正直な感想である。そうやって博士課程に進めるように誘導するのはいいけれど、その人たちはどこに落ち着き先を見つけられるのだろう。私が学生をやっていたころは、学振を取ったといったら超エリートで、学者人生勝ったも同然という感じだったが、4分の1がもらえる時代には大して箔はつかないのだな、と思った。まあでも学生さんにしてみれば大金なので、来週水曜日の研究科締め切りぎりぎりまで筆を入れなきゃね。

スーザン・ブラックモアの「「意識」を語る」を読む。

「意識」を語る

「意識」を語る

今年の3月に出たばかりのホットな本。意識研究に関わる有名科学者や哲学者20人に、自分もその筋の有名人であるスーザン・ブラックモアが思いっきり突っ込んだインタビュー集。なかなかであった。

出てくるのは、Chalmers, Churchland夫妻、Crick, Dennett, Greenfield, Hameroff, Koch, Penrose, Ramachandran, Searle, Varelaなどなど。意識に興味を持つ人には見逃せない本でしょう。

大きくは2つの陣営にわかれる。知覚や記憶など各種の脳の機能がすべてきちんと説明される時が来たとして、その時には説明すべきものは何も残らないと主張する陣営(Dennett、Churchland夫妻)と、その時にもまだ説明しきれないものが残る(それが意識自体だ)とする陣営(Chalmers、Searle)の2つだ。私自身は漠然と後者に肩入れしている。

Chalmersのこの意見には少し意表を突かれた。
「これは形而上学的な深い問題を引き起こす。世界には何があるんだろうか?世界の基本的な構成要素とは何だろうか?物理では、これはしょっちゅう起こる。誰も、たとえば時間や空間を、時間や空間よりももっと基本的なもので説明しようとはしない。質量や電荷でも同じだ。結局どこかで、何かを根本的なものとして受け容れる事になる。ぼくの見方は、一貫性を持つためには意識についても同じことを言わなきゃいけないってことだ。もし意識についての事実が、すでに僕達の持っている根本的な物理的性質−たとえば時間、空間、質量、電荷とか−から導出できないのであれば、一貫性のあるやり方は「オッケー、だったら意識は還元されるべきもんじゃないんだね。還元不可能なんだ。それは世界の基本的特性のひとつなんだ」ということだろう」

Penroseとタッグを組むHameroffも同種の主張をする。

ロジャー・ペンローズと私は、クオリアというのが根本的ならば、宇宙の根本レベル、現実の存在する最低レベルで存在する必要があると考えています。現代物理では、これはプランク長のスケールで最もよく記述されます。これは時空間幾何がもはやなめらかではなく、量子化されているレベルです。スケールをおよそ10^-33 cmくらいまで下げると、粒子性のある時空間レベルに到達して、それが根本的なレベルです。クオリアはこのレベルにおいて、宇宙を構成する時空間幾何の根本的なパターンとして埋め込まれるのだとわれわれは考えています。ロジャーはまた、数学におけるプラトン長や倫理や美学もまたそこに埋め込まれているのではないかと示唆しています」

でもこれは正にライプニッツモナド説の再来ではあるまいか。より正確にはQuantum Monadologyというあれだ。http://d.hatena.ne.jp/tnakamr/20090404/1238831537

Churchland夫妻はハードボイルドだというのは知識としてはあったが、予想以上にすごかった。
「でも赤という感覚が、脳の中で起きていることとどう関わっているかという問題を考えると頭が痛くなりませんか。
昔はね。昔はそうだった。何年も前に考えてみた時は開いた口がふさがらなかった。でもこの仕事を40年やって科学の歴史をたっぷり学んだんだ。天文学、物理学、化学、生物学の歴史を学んで、意識やクオリアに目をやってみて今感じている知的混乱は決して新しいものではないとわかった」
最近少しKen Mogiに?という感じを持つようになったので、このハードボイルドさはある意味爽快感がある。

ネタ的には、Hameroffの最後の発言が一番面白かったかも。
「−では死後に意識はどうなると思いますか。
−心臓停止、あるいは死などで微小管の量子コヒーレンスが失われると、頭の中のプランクスケールの量子情報も、宇宙のプランクスケール全体に放出され、漏れ出します。存命中に意識や無意識を構成していた量子情報は完全には放出されませんが、それが残るのは量子からみあいのためです。量子重ね合わせ状態にとどまり、量子的な状態還元や収縮を起こさないので、無意識のような、夢のような状態になっています。そしてプランクスケールでの宇宙は非局所的なので、それでホログラフ的に永遠に存在し続けます。
 これは魂かって?そうかもしれませんよ」