エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

ロシアにあって日本にないもの

カラマーゾフの兄弟」の新訳で知られる亀山郁夫と「国家の罠」「自壊する帝国」の佐藤優の対談「ロシア 闇と魂の国家」を読む。

ロシア闇と魂の国家 (文春新書 623)

ロシア闇と魂の国家 (文春新書 623)

ところどころで、亀山郁夫が差し出した手を佐藤優がぴしゃりと振り払う様子が面白がっているうちに、ロシアやキリスト教を語りつつ、話は日本社会あるいは日本人の精神から手ひどく喪われたものについて及んでいく。3分の2を過ぎた辺りから、両者の語りは凄みを帯びていく。

「われわれ日本人がロシアから学ばないといけないのは「魂」の回復です。つまり、個々の「魂」によって世界を構成し、自分の魂に映る世界像についてきちんと話す。同時に、ほかの人が話す世界像について最後まで聞く。この集積が大事なのです。ところが、今の日本では、自分の魂に基づいて、責任をもって語るインテリも政治家もいなくなっている。ステレオタイプに感覚で世界を把握しているから、ステレオタイプから少しでも外れる他人の世界観を最後まで聞くことができない。ちょっとでも異質のものを見ると排除したいという欲望が働く。魂がこのように弱ることで、日本自体が弱ってきているのです。」
「のんべんだらりと生きていると国家は漂流してしまう。−−のんべんだらりと生きている国家というのは、きっと日本の現代を予言していますよ。要するに、中心の不在です。中心なしで、日本がどこまでやっていけるか、ぼくにはわからない」

首相問責決議案が参院で可決されたら衆院を解散すると福田首相が言ったそうだ。政治の季節が始まるかもしれない。私は、全く個人的な理由から小沢一郎がいるのでこの10年以上一貫して民主党支持である。岡田さんも悪くない。先週の週刊文春で10年後の総理候補No1に挙げられた前原誠司は、たまに出町柳の駅前で演説をしているので、一度自転車でそばを通り過ぎたことがあるが「何だか線の細い人だな」と思った覚えがある。

佐藤優は、一国の指導者は「大審問官(in カラマーゾフの兄弟)」でなければいけないという。小渕さんも橋本さんも森さんも、エリツィンにもプーチンにもそれを感じたという。それは、ときには暴力を行使してでも、人類が生き残ることができるようにするために、自らの優しさをころすことができる人間だという。うーん、遠い世界だが、「カラマーゾフの兄弟」は大好きだ。