エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

列島融解

研究所へと続く道の左手の花水木(たぶん)が花をつけている。裏手の枝垂桜も満開。ただし今日は花曇にしても肌寒い。


濱嘉之の「列島融解」を読む。

列島融解

列島融解


3.11以降の日本のシミュレーション小説。濱嘉之のこれまでのキャリアがよくも悪くも反映された作品であり、これが彼の本音に近いものなのだろう。濱嘉之の国家観と佐藤優の国家観の違いが興味深い。濱は製造業を中心とした日本の民間会社に日本の力の源泉を見ているのに対し、佐藤には日本人の過去と国民性を客観的に凝視しつつ、何かしら政治的な解決策を探ろうとしている姿勢がある。

「『現在の日本は、社会のシステムが確立しているため、いや、むしろシステムが自立化し過ぎて、かえって政治が無力化された状態にあるといえます。つまり、多くの崩壊国家の正反対にあるが故に、逆にシステムの想定を超えた問題に対応することが難しくなっているとみることができるわけです。それが過去20年にわたる経済政策の失政、また原発事故への対応の拙さに象徴されていると言えるのではないか』」

あちこちに興味深い情報の断片や分析がちりばめられ、小説としてもreadableで値段の価値は十分にある。だが、現在とありうべき未来に濱の興味が向かっているせいなのか、戦後の日本社会についての評価が型どおりであるように思う。その意味では、佐藤優の国家観により共感を感じる。