エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

食える数学、食えない○○

金曜日に筑波山にラボ遠足にでかけた。ケーブルカーの出発点は宮脇駅。そこまでの道には出世稲荷。よく晴れた秋の日で、よいラボ遠足だった。


神永正博の「食える数学」を読む。

食える数学

食える数学

H24年度開講の「生命科学者のための数理リテラシー」の4冊めの教科書候補としてざっと読む。
とてもよい本。でも、私のようなサンデー読書家にはむかないが。


『この定理は、はるか将来にもなんの役にも立たないだろう。
だがそれでいい。
私の数学が応用の奴隷に成り下がるなど、私には耐えられないことだ(アンドリュー・ワイルズ)』

「論文を十数編読み、ゼミに参加してすぐにわかったのは、量子計算アルゴリズムの話は、とっくに旬をすぎてるということでした。この判断には異論があると思いますが、少なくともわたしはそう思いました。
もちろん、アルゴリズムの研究も進歩しているようでしたが、わたしは「次の本質的な問題は、量子コンピュータをどう実現するかという実験的なものだ」と理解したため、深入りするのをやめたのです」

「実際のQRコードには、リード・ソロモン符号という優れた誤り訂正符号が使われています。リード・ソロモン符号は、有限体とよばれる代数学のアイディアを使って構成されています」

ガボール変換は、窓関数と周波数を指定すると、その場所の情報、この場合は地層(不連続信号)をとても精密に検出してくれそう。しかし、ちょっとでも焦点がはずれると、検出力は急激に弱まってしまうのです。その結果、重要な不連続信号を見落とすことになります。これがガボール変換の欠点です。
もしここで、「うーん、うまくいかないぁ…」と頭を抱えて終わっていたら、モルレーは、現在ほど有名にはならなかったでしょう。
彼は、ここでへこたれませんでした。発想を転換して、それまでのフーリエ解析の常識を打ち破る、トンでもない方法を思いつくのです」⇒ウェーブレット

地震波の解析にウェーブレット変換を応用することを思いつくためには、フーリエ変換を、「もともとの原理から」理解している必要があります。また、フーリエ級数フーリエ変換を原理面から理解するためには、数学の教科書と一定時間格闘する必要があったはずです
もし、モルレーが単純にフーリエ変換の使い方を暗記しただけの人だったら、ウェーブレット変換のアイディアを思いつくことは難しかったでしょう。
数学を根本から理解している人のスゴみは、こんなところにあります」
耳が痛い。

「わたしたちを悩ませている問題は、本当に問題なのか?一度、考えてみる価値があるのではないでしょうか」
普通それを投企という。


「私は講義のとき、この種のデリケートさをどう説明すればよいのだろう、と思うことがよくあります。
この種の話をきちんとすれば、学生を数学科数学のどの沼にひきずりこむことになるし、かといって、まったく注意しなくてもよい、という問題でもない。注意しすぎれば、実際に活用するとき怖くて使えない−といった本末転倒な状態に陥ります。なかなか難儀なのです」


「ここまでの主旨をまとめてみると、「『数学を使って別のことをやりたい学生』にとって必要なのは数学Ⅳであって、数学科数学ではない」ということになります」
なるほど。

「統計なら、Rでも、SPSSでもS-PLUSでも、なんでも好きなソフトウェアを使えばよいでしょう。いまどき電卓というのもどうかと思います。何を計算しているのか、計算に何が必要なのかさえわかれば、問題ありません」
エクセル2003はバグが多くて注意(2007はまだまし)とか書いてある。やっぱり講義の前にRを勉強しておきなさいということらしい。面倒↓

「数式の計算に関していうと、工学部であれば、高校で習う範囲くらい(数学Ⅲまで)は自由に計算できた方がよいでしょう。
高校の内容というのは、多くの人が想像しているよりもずっと高度です。したがって、それらが十分にわかっていれば、応用でどうにもならない、ということはあまりないのではないかと思います。数理工学など特別数学的な分野を除けば、高校の内容を骨の髄まで理解していれば計算技術としては十分だ、というのが、経験から得た結論です」

「大学の数学科でしばしば注意されるのは、「明らか」と言う言葉を安易に使うべからず、ということです。是ゼミで「ここは明らかです」と言ってしまって質問攻めにあい、あえなく撃沈、ということはよくあります」
じゃあ、ランダウーリフシッツはどうなのよ、と言いたくなるが「つっこめないのは自明」です。

「上手い表現かどうかわかりませんが、数学において一番重要なのは、「わからない状態をどれだけ楽しめるか。そして、自力でわかろうとするか」ということだと思います
数学に限らず、すべての創造的な仕事は、なんらかの不足によってもたらされるのではないでしょうか」
実験科学一般についてはこれとは違う資質が必要でしょう。

「先取り勉強法をするときに注意すべきなのは一点だけです。
それは、計算だけはできるようにしておくことです。ある程度機械的なものは練習すれば絶対できるようになります。そのうえで先取りするのです。
そうでないと、せっかく先取りしても、具体的なことが何もできなくなってしまうからです」
わかりましたか。灘、開成、麻布の在校生諸氏。

指定教科書の4冊目確定。