エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

マイルズ・デイヴィス

昼食を食べてくつろいでいたら、28年ぶりに高校時代の友人から電話が入り、いろいろ話す。


村上春樹の「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです」を読む。

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

「小説に関して、僕には師と言えるような存在はいないんだけれど、ジャズのマイルズ・デイヴィス、彼が僕のロールモデルなんです。彼のやり方は、新しい手法を取り入れると、その都度どんどんどんどん煮詰めていく。そうやってネジを締めるだけ締めると、またバッと広がって別のシステムに行く。バップを煮詰めるだけ煮詰めると、突然クールにいって、クールを煮詰めると、次はハードバップ。それが終わると、今度はモード、次に新主流派、そして、いくぶん神秘的なところに行ったかと思ったら、あるとき突然エレクトリックに行っちゃう。エレクトリックを煮詰めきったらヒップホップ。そうやって、1945年から80年頃までの35年間、彼は常に第一線でやってきた。なぜそれができたかと言うと、つねに後ろは振り返らず、新しいものをインテイクし、それを煮詰め、煮詰めきったところで新しいインテイク、というダイナミズムを維持していたから。マイルズ・デイヴィスの素晴らしさは、新しいものの取り入れ方のダイナミックさとネジの締め方の厳しさ、その二つにあったんです」
こうやって、35年研究ができるといいなあと思う。

「今、世界の人がどうしてこんなに苦しむかというと、自己表現をしなくてはならないという強迫観念があるからですよ。だからみんな苦しむんです。僕はこういうふうに文章で表現して生きている人間だけど、自己表現なんて簡単にできやしないですよ。−−にも関わらず、日本というか、世界の近代文明というのは自己表現が人間存在にとって不可欠であるということを押しつけているわけです。−−一貫した自己なんてどこにもないんです。でも、物語という文脈を取れば、自己表現しなくていいんですよ。物語が代って表現するから」
これも全く同感。20代の頃は自己表現したくてしかたなかったが、論文を書きはじめると、そういう意味での欲望は随分薄くなり生きるのが楽になったと思う。それで食っていくのは大変だけれども。