エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

数理リテラシーの精神

ラボの立ち上げで4月、5月の論文がチェックできていなかったので、まとめてチェックしたら、この時期にCell, Natureにphagosome maturetionにおけるRab5 to Rab7 coversionについて3本の決定的な論文が出ていることがわかった。読んでいるうちに、もうひとつ大きな問題が潜んでいるらしいことが浮かんできた。手をつけたいのだが、間に合うだろうか?


杉本大一郎の「使える数理リテラシー」を読む。

使える数理リテラシー

使える数理リテラシー

20万円でスーパーコンピューターを作った宇宙物理学者の本。これから細胞生物学の分野で実験データから定量的モデルを作る仕事をしたい人には特におすすめできる。

「運動による表現と状態による表現は、微分的表現と積分的表現に対応する」
「指数関数はシステムがそれに特性的な量を持っているときに現れる法則性を記述するものであり、べき関数はそれを持っていないシステムを記述する法則性なのである」
「現実の問題では、全領域が必ずしも一つの原理で成り立っているわけではないものが普通である。その結果、パラメターが支配的であったり、指数関数をもたらすものが支配的であったりする。そのため、現実を観測して得られる結果の関数形によって、それぞれの範囲で何が起こっているのかを調べることができる。このことは物理的な現象についてだけでなく、他の自然界の現象や社会的な現象についてもあてはまる。だからよく分かっていない現象を調べる時に重要な着眼点である。観測データを統計的に考察して現象を理解しようとする時には、特に重要である」


特にうーむと思ったのは以下のくだり。これは複雑系非線形系の考え方とは一見正反対に見えるが、この点を踏まえない複雑系理論は素人の遊びになる(それでも十分楽しいのだが)。
「いろいな概念がまざってこないように、それぞれ独立になるように切り分けた概念体系を構成していくことは極めて重要で、数理リテラシーの精神でもある」
「統計の概念を使って物事を解明しようとするならば、可能な限り意味をはっきりさせることのできる変数をとり、意味のはっきりする扱い方をし、データを階層構造的に取り扱っていくことが大切である。それが統計学の概念を駆使する数理リテラシーというものだと、私は考える」