エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

自然をありのまま見ない鍛錬

今日は雨から曇りの天気。下の子が熱を出したりしたこともあって、外に出ずにごろごろ過ごす。

佐藤文隆「孤独になったアインシュタイン」を読む。

日本の宇宙物理学の右代表であり、「物理帝国主義」を標榜する佐藤文隆は有名人であるが、ときどき宇宙物理学に関する小文を読む程度で、まとまった著書を読んだのは初めてだった。物理帝国主義者でもあり、湯川秀樹の孫弟子でもある彼の世界観には、異端のにおいはほとんどない。したがって、本書の後半で同僚でもあった蔵本由紀の文章を引き、科学に関する見方に共通のものがあると書いているのは意外だった。

多様性と普遍性(超越性)の両方に目配りしつつの議論展開は中庸的でもあり、読みやすい。

「超越性というと哲学的に感じるが、たとえば力学の運動方程式の根拠を、作用積分の変分原理で導出する最小作用原理に置き換える、などがその例である。こういう法則性の遡源をよく「還元」という言葉で一括してしまう場合があるが、この場合の還元は、質の違う次元に超越したことを意味している。大事なのは、この超越の意味を忘れずに、現実との遮断も安全に行うことである。

私は大学で長いこと解析力学を二年生に講義していたが、「これは自然をありのまま見ない数理的な鍛錬である」と言ってきた。普遍主義は超越して初めて開けるものである。同じレベルで排除や切りつめをして達成できるのものではない。」

解析力学が持つ上記の意味は、こういう表現をされるとよくわかる。自分が講義を受けた時はそんなことは考えもしなかったし、したがって解析力学も遠い存在であった。25年もたってからこんな肝を初めて知ってもしかたなかろうが、「研究者は常に時間の10%は過去勉強してきたものの復習につかわなければいけない」という話もあるので、頭に入れておきたい。また、講義をするものとして、こういう提示の仕方があることも覚えておきたい。

村上春樹が新訳したトルーマン・カポーティの「ティファニーで朝食を」を読む。

ティファニーで朝食を

ティファニーで朝食を

気分がぴたりと合わなかったせいか、村上春樹があとがきで書いているほど文章に繊細さを感じなかった。私はアーウィン・ショーの方が好きだな。今は全く流行らないし、再読するほどではないが、若い頃にはじめて触れた時の感触は忘れがたい。