エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

述語的統一による世界像

今日は一日、いい天気で若葉の緑が美しい。大文字山を背景にポプラの葉が風に翻る。一週間の仕事で疲れ気味の目に優しい風景だ。

述語的統一による世界像とは、「どのように」を基軸に現象世界を見ることである。モノとその属性の間の主従関係を逆転して、さまざまな異なったモノが同一の状態に「於いてある」と見る見方である。と蔵本由紀は言っている。

新しい自然学―非線形科学の可能性 (双書 科学/技術のゆくえ)

新しい自然学―非線形科学の可能性 (双書 科学/技術のゆくえ)

ある意味では「見立て」とか「アナロジー」による世界の見方と言ってもいいのかもしれない。

この本は3部構成で、1章では「述語的統一」と「周辺制御の原理」を中心に、従来の科学を新たな視点から再発見する手立てを説明している。2章は、述語的統一による物理学の実例として、蔵本由紀の専門である「非線形科学」を簡潔に説明している。3章では、現代における知の過剰と無知を静かな口調で語っている。

その語り口はまことに静かであるが、その声は遠くまで響く。射程の長い議論である。この本は知識を得るための本ではない。蔵本由紀の声を遠く近くに聞きながら、自分の思考の淵に沈んでいくための本である。

私はこの本を国立文楽会館に往復する京阪電車の中で読んだ。その日の演目は「国姓爺合戦」だった。実ははじめての人形浄瑠璃だったが、どっぷりとその世界にはまってしまった。したがって、私の中では、「国姓爺合戦」の高揚と、蔵本由紀の静かな声が重なって聞こえてくる。