エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

世襲型資本主義と世界的な資本税

居室の収納スペースが足りなくなったので、IKEAでビリー2本(80 cm x 202 cm)を買ってきて、家内、娘の3人で組み立てる。ついでに模様替えをしたら随分すっきりした感じになった。


トマ・ピケティの「21世紀の資本」を読む。

21世紀の資本

21世紀の資本


ビジネス書はともかく、600ページもある正統派の経済書を読んだのはたぶん初めてのことだと思う。予想よりも楽に読み通せたのは、このグローバル資本主義という奴はいったいどういうものなのかという以前からの疑問にまともに答えてくれる内容だったことと、訳者の一人の山形浩生の「第1章はとばしていいです」というアドバイスに従ったからだろう。


現在進行形で山ほど解説が出ているので内容紹介は省いて、個人的にアンテナが立ったところのみ抜き書きする。


トマ・ピケティは、先進国で起きている経済トレンドを「世襲資本主義」と呼んでいる。世襲財産などは正直まじめに考えたこともなかったので、豊富なデータで示されるといろいろと見えてなかったものが見えてくる。これは以下のような性質のものらしい。

世襲型資本主義―これは21世紀初頭の現在、台頭しつつある―が何か目新しいものだという印象があるのだが、実は相当部分が過去の繰り返しで、19世紀的な低成長環境の特徴なのだ」
「ほとんど停滞した社会では、過去に蓄積された富が、異様なほどの重要性を確実に持つようになる。
だから、21世紀の資本/所得比率が18,19世紀の水準に並ぶほど構造的に高い水準になってしまうのは、低成長時代に復帰したせいだと言える。だから成長―特に人口増加―の鈍化こそが、資本が復活をとげた原因だ」


この半世紀ほどを生きてきた日本人の一人として、この国の公的負債がとんでもない量につみあがっていることは、未来を考えるときに悲観に傾く大きな理由であり、責任を感じるけれども何をしていいかわからないという無力感に誘われる理由でもある。そういう気持ちが常にあるので、このような記述を見ると少しばかり光明を見るような気がする。

「たしかに公的債務の大きさを見れば、純公共財産は実質ゼロなのだが、純民間財産があまりに高すぎて、両者の合計は1世紀前の高い水準になっている。だからこそ、私たちが恥ずかしい債務負担を子孫の代に遺そうとしているとか、ボロをまとい灰をかぶって許しを請うべきだなどという発想は、まるっきり筋が通らないのだ。ヨーロッパ諸国がこれほど豊かだったことはない。一方、恥ずべき真実は、この巨額の国富がきわめて不均等に分配されているということだ。民間の富は公的な貧困の上に成り立っているし、これがもたらす特に不幸な結果のひとつは、私たちが高等教育に行う投資よりも債務の支払いに費やすお金の方が今でははるかに多いということだ」

「今日のヨーロッパほど巨大な公的債務を大幅に減らすにはどうすればいいだろう?手法は3つあり、それを各種の比率で組み合わせることもできる。資本税、インフレ、緊縮財政だ」

この本で提案されている新しい形の資本税(世界的な資本税)は、21世紀のグローバル化した世襲資本主義だけのために設計されたものだ。世界的な資本税というのは、ある種の理想(または夢想)のように思われるが、具体的な政策を考える場合のレファレンス(理想解)としての意味は十分あるだろう。


この1/9からNHKでピケティ教授のパリ白熱教室が放送されるというのでちょっとのぞいてみたい。http://www.nhk.or.jp/hakunetsu/paris/about.html