エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

ライフワークをもたない

昨年参加した国際神経発生大会(ISDN)が、来年6月リスポン近郊の港町Estorilで開催されるという情報が公開された。まだspeakersは未定だが、ポルトガルは激しく魅力的である。ファド、リビエラ海岸、米中心のポルトガル料理。早速、同じ研究科のUさんを誘ったら、「6月は日本発生学会で大会長をやらなきゃならんのよ。いいなあ。おれスペインは行ったことあるけど、ポルトガルは行ったことないんだよね」「大会長は偉いんだから暇でしょう」「いや、でもなあ」ということで、ほかに同行者を探すことにした。日本から16時間かかるそうなので、一人では間がもたない。


玉村豊男の「今日よりよい明日はない」を読む。

今日よりよい明日はない (集英社新書)

今日よりよい明日はない (集英社新書)

玉村豊男のエッセイのよさは、読んでいるときの生理的快感にある。ソーメンののど越しのような。こちらが少し鬱屈していても、それとは無関係に慰撫してくれる。

「問題は、あまり固く考えないほうがいいのです。
次から次にあらわれてくる問題に対処している最中はそれに集中して取り組みますが、もし現実に立ち表れたある問題によって、計画の進行が当初のもくろみどおりにいかないことがわかった場合には、躊躇なく計画を修正します」
こういうところに感嘆のため息をついてしまう。「順調希求願望」の強い人間には、こういう言葉はいい薬である。

「ひとつの夢がかなったら、すぐに次の夢を持つ…だなんて、どうしてそんなふうに、次から次へと進んでいかなければいけないのですか。絶えず次の夢や次の目標を求めるのは、なにもかもが右肩上がりだった、高度成長期の悪い癖ではないですか。
夢は現実にないことをいうのですから、もし現状は肯定できるものなら、夢は必要ないでしょう。そんなふうに、つねに現状に満足せず、もっといい人生や、もっといい生活がどこかほかにあるかもしれない、と幻想を抱いて追い求めるから、いつまで経ってもゆっくりと暮らすことができないんですよ」

「いちばん危険なのはライフワークをもつことです。
死ぬまでに絶対この仕事をやり遂げるぞ。
もしそんなふうに決めたら、仕事が完成した翌日が危ない。
小さな計画ならともかく、生涯をかけるような大きな目標を掲げてはいけません。いま目の前にあるやるべきことがその日のワークであるライフ…ならよいですが、ワークにライフをかけるのは危険です。
暮らす、ということは、一日を過ごすという意味です。暮れるものを、ただ、暮れるにまかせる。とにかく、一日を持続する。今日やるべきことをしっかりやり、その日一日のわずかな達成に対し、小さな癒しに心を慰めて、明日に残った仕事を考える」
これは村上春樹の「小確幸」ですね。