エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

プランBと意味のある失敗

昨日で学会も終わり。京都の町は適正サイズだとやはり思う。


マリンズ+コミサーの「プランB」を読む。

プランB 破壊的イノベーションの戦略

プランB 破壊的イノベーションの戦略


図書館の新書コーナーでふと目に入り、山形浩生訳というところで読んでみることにした。
山形浩生はうさんくさいが目利きで、普通気づかないところをさらっと気づいてしまう。


「プランB」は経済書だが、割と筋の良い本だと思う。大学で研究室を運営することはベンチャー経営と似ている部分がある。
外部資金をとってこなければ実のある研究はできないし、その資金で研究室を回していくためにも経営に通じるセンスが大事になってくる。もちろんあまりそちらに行き過ぎるのは考え物だが、「失敗してもいいや」とか「どういう失敗ならいいか」ということをきちんと書いてある本は意外に少ないので、そういう意味では異質のビジネス書なのだろう。(ビジネス書はわずかしか読んでいないで先入観でものを言っているのであまり自信はない)


「「とにかくやってみる」だけでは失敗する可能性が高い。
なぜって?今日は不確実性の時代だ。唯一確実なのは「状況は変化する」ということだけ。本書の主題は単純なものだ。イノベーションや新規事業のほとんどを取り巻く不確実性は、検討中の計画と、すでにある他の事業とを比べることで大幅に減らせる。
 われわれは、プランAの一部または全部がまちがっているという想定で話を進める。一連の仮説を系統的に試すことで、賢い事業家や現場経験豊富な重役は、感情的な説得だけではなく実験を通じて、もっとよいプランBに、やがてはプランZに達するのだ」

「とはいえここで主張しているのは、失敗したとき用の計画ではない。私たちが提案しているのは、まずはプランを一つだけ検討することだ。プランAを出発点に、できる限り迅速かつ安価な方法で、乏しい資産とエネルギーのすべてをかけて、脆弱性の臨界点に至るまでプランを厳しい荷重試験にかけよう。それぞれの場面で、果たしてそのプランが有効であるかを確かめよう。もしも出てきた兆候が、プランBに移行しなさいと告げていたら ―遅かれ早かれたいていそういうことになるはずだが― 次へ移って同じプロセスをもう一度繰り返そう!」

「私たちはこのような仮説を「未踏の信念」と呼ぶ。この信念が正しいかどうか、類似例だろうと反例だろうと先例をみるだけでは満足のいく答えが得られない。しかし、この「未踏の信念」を早めに見つけ出すことが大変重要なのだ。それによって、限られた時間と金をもっとも効果的かつ確実に、この「信念」の検証に集中させられる。その結果、大きな成果が得られる」

「この章の3つの例からは、もう一つ学ぶべきことがある。たしかに世界はイノベーションであふれてはいるが、本当に新しいものなどほとんどない。−−−新しいベンチャーを成功させるために、車輪を再発明する必要はない」


ただ難しいのは、学生に「失敗は当たり前。失敗してもいい」という時に説明の仕方を間違えると、きちんとした準備さえしない学生が意味のない失敗をするので自戒している。意味のない失敗を繰り返して自信を喪失してしまうと、教育としてはもとも子もない。