エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

よみがえる網状説

昨日は米沢富美子先生の講演を聴きに行った。進化論と20世紀物理学と複雑系の話。一般向けの講演で「おー」というネタはなかったが、話し方の参考になった。ただスライドが妙にピンクが多かったり、ピンクや水色の☆マークが頻出するのには参った。最後に挨拶に出てきた坂東先生の京都風のつっこみが面白かった。この人の話を聞いてみたい。


治部眞理・保江邦夫の「1リットルの宇宙論」を読む。

1リットルの宇宙論―量子脳力学への誘い

1リットルの宇宙論―量子脳力学への誘い

この本はたぶん50%以上「トンでも本」に分類されるのだろうが、主張は明快。カハルのニューロン説を捨て、ゴルジの「網状説」をよみがえらせ、それに基づいた量子脳力学で記憶の素過程を説明しようという豪腕。さすが保江先生。

ニューロン主義におかされすぎた近代脳科学においては、大多数の人々がニューロンの神経回路網の働きの中に脳の高度な機能としての記憶や意識の作用を見出すことができると信じているようです。本来は細胞膜における極めて微細な物理現象としての脳の素過程を見極めた上で、そこから帰結される化学シナプスの可塑性の制御メカニズムを解明するという課題を抱えたはずの物理学者までが、ヘッブの学習則やバックプロパゲーションといった現象論的手法を神経回路網に持ち込み、スピン系の統計力学とのアナロジーを追求して脳の理解に達したと讃えることは、決して物理学者にとっての健康的な姿とはいえません」
保江先生、後ろから鉄砲撃ってませんか?

「ちょうど大宇宙の中を電磁場のゲージボソンである光子を吸収したり、放出したりしながら、互いに強い関連を持って複雑に運動している電子たちのように、1リットルの小宇宙、脳の中では結合水の電荷の偏りの場のゲージボソンを吸収し、あるいは放出することによって、蛋白質フィラメントの網目状立体構造に沿って運動するコーティコンの集団の中に一つの秩序が生まれるのです」

「大脳皮質デカルト系においては、その外部に存在する古典的ニューロン系からのエネルギーによって真空の相転移が誘発されます。この真空の相転移現象を別の角度から捉えるならば、古典的ニューロン系からのエネルギー流入デカルト系により「学習」され、その結果は転移した真空状態という形で保存されると考えることができます。この意味で、大脳皮質デカルト系は量子脳力学の真空状態という形で保存されると考えることができます。この意味で、大脳皮質デカルト系は量子脳力学の真空賞阿智の相転移を利用した学習する自動機械、オートマトンに他ならなかったのです。そこでは学習の結果は相転移により移り変わった新しい真空状態として考えられるわけですから、梅沢先生の直感どおり、記憶は真空状態そのものなのです」

ペンローズと保江先生が対談したらどういうことになるのだろうか。少し怖いことになりそうな気もする。