エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

幻子論

ジンギスカン義経だったという本がある。明治天皇はひそかに暗殺されすりかえられていたという本がある。いわゆるトンデモ本である。もちろん物理の世界にもあるし、神経科学の世界にもある。個人的には好きである。Anything goesだと思うから。

熊野宗治の「幻子論」

幻子論―物理学の未来のために

幻子論―物理学の未来のために

この本は最初、ジュンク堂で見た。衝動買いしそうになって、我が家の蔵書スペースのことを考えてやめた。すぐに図書館にリクエストを出したが、他に希望者がいなくて後回しになったらしく1ヶ月くらい待たされた。

この本は「宇宙はビッグバンで誕生したものでなく、相対性理論はおそらくまちがっている」ということを主張する。論理展開は時に直観的に過ぎ、ところどころ飛躍もあり、もう少し文章に工夫がほしいところである。ただ、マイケルソンをはじめとした光速の測定実験の説明が細かく書いてあり、光速一定ということが実験的な支えをもたない(らしい)ということが呑み込めてくる。本当だとすれば(いかにもありそうなことだが)恐ろしいことだ。

私は、「数学は科学の女王にして奴隷」でようやく特殊相対性理論が腑に落ちた口である。

数学は科学の女王にして奴隷 1 《数理を愉しむ》シリーズ (ハヤカワ文庫 NF)

数学は科学の女王にして奴隷 1 《数理を愉しむ》シリーズ (ハヤカワ文庫 NF)

マクスウェル方程式を背景不変にする変換(ローレンツ変換)を要請すること、と理解した。
ただ、そのときに相対性理論が間違っているかもしれないとして勉強しなかったので、まちがっているといわれると自信がない。「光より速い光」
光速より速い光 ~アインシュタインに挑む若き科学者の物語

光速より速い光 ~アインシュタインに挑む若き科学者の物語

を読んだ時もそう思った。

ローレンツ収縮、時の遅れ、質量肥大、現実にはそんなことは実在しない。相対論には錯覚とごまかしと頻換数学が入り混じっている。難解の原因はそこにある。地球が自転しているのと、宇宙が回ってみえるのとは等価ではない。座標だけを安易に変換して物理量を無視してはいけない。地球はそんなに膨大な引力を持たない。
 相対論はややこしい数学的遊びだ。自然の真理を解き明かす事にはまったく関係していない。相対論が自然科学に及ぼした被害は甚大なものだ」

著者は69歳。おそらくはそのためであろう現役感のない文章である。後進を待つという態度で書かないでくれたらもっとこちらの胸に響いたのに、と少し残念であった。本とは現役が書くものであろう。