エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

人工知能の3回目のブーム

昨日は遅ればせながらの子供の合格祝いで、久しぶりに目黒にとんかつを食べに行った。
開店30分前に着いたら誰もいなかったので「おかしいな」といいながらも並んでいたら、ものの15分で列ができて、いつもの混み具合になった。いつもどおりヒレカツ定食を頼む。キャベツのお代わり2回。


人工知能の3回目のブーム」を横目でみていたのだが、さすがに商売柄いろいろ気になり始めたので、少しまとめて読んでみた。

小林雅一 「AIの衝撃」

http://tjo.hatenablog.com/entry/2015/04/30/190000
ミチオ・カク 「フューチャー・オブ・マインド」
フューチャー・オブ・マインド 心の未来を科学する

フューチャー・オブ・マインド 心の未来を科学する


この人工知能ブームの行き先が一番気になるところだが、3者3様でいろいろ勉強になった。(まだ)現場にいる人間としては、ミチオ・カクの書いているこのくだりがぴったり来た。

「するとこの疑問が残る。ついに三度目の正直となるのか?。
ハリウッド映画を見ると、『ターミネーター』の恐ろしいロボットがすぐにでも登場しそうに思えるが、人工的な心を生み出すというタスクは、かつて考えられていたよりもはるかに難しいものとなっている。以前、ミンスキーに、機械はいつ人間の知能に並び、さらには勝つだろうかと尋ねたことがある。すると彼は、いずれそうなるとは確信しているが、もうその日を予測することはしないと答えた。栄枯盛衰の激しいAIの歴史を考えれば、明確なスケジュールを設定せずにAIの未来を描いていくというのが、一番賢いやり方なのかもしれない」


読み始めるまでは、物理学者であるミチオ・カクがどこまで基本的に生物学であるこの話題をvividにつかんでいるかを気にしていたが、すぐに気にならなくなった。何しろソースが大物ぞろいでそこからの一次情報なので勉強になる。あとは、やはり物理学のフィルターを通していることで、適度に一般化されてむしろわかりやすい。

「『構成論』の理念にとって、重要なのは、機械が赤い色を味わえるかどうか議論することではなく、その機械を作ることだ。この見方においては、『理解する』や『感じる』という言葉を表すのに一連のレベルがある。そのレベルの一端には、少数の記号は扱えてもそれ以上はできない、今日の不器用なロボットがいる。もう一端には、クオリアを感じることを誇る人間がいる。しかし時が経てばロボットは、われわれよりも感覚をうまく表現できるようになる。そのときには、ロボットが理解しているのは自明となるだろう。
これが、アラン・チューリングの有名なチューリング・テストの背景にある理念だ。彼は、どんな質問にも答えられて、人間と見分けのつかない機械がいずれ作られると予測し、こう語っている。『コンピュータを知的と呼ぶに値するのは、それが人間であると人間に思いこませることができた場合だ』
物理学者でもあるフランシス・クリックが、うまいことを言っている。いわく、前世紀、生物学者は『生命とは何か?』をめぐって激しい議論を戦わせたが、今ではDNAの知識によって、科学者はこの問い自体が明確に定義されていないことに気づいている、と。この単純な問いはさまざまなバリエーションを持ち、多層的で、実は複雑なのだ。『生命とは何か?』という問いはあっさりと消え失せた。やがては、『感じる』や『理解する』にも同じことが起きるかもしれない」

ミチオ・カクの書いている内容は、この2つの抜き書きよりもずっと豊富だが、まずは頭に残りそうなのはこんなところだ。


小林雅一の「AIの衝撃」は読んでいる間はなかなか響いてくると思っていたが、どうも腑に落ちない部分があって、はてなのエントリーやミチオ・カクの「フューチャー・オブ・マインド」でバランスをとるとようやくしっくりくる。逆に、この本だけでトレンドを理解しようとするとかえって危ういのでは。でも、下記のような部分はなかなか感心した。

「しかし驚くべきことに、その後の訓練によって、この動物は再びモノが見えるようになりました。つまり脳の聴覚野は、視覚にも転用できることが分かったのです。
その後も同様の実験が繰り返され、『舌でモノを見る』『建物などに反響した音によって、視覚障碍者が視覚に匹敵する精密な空間情報を把握する』など、驚くべき発見が次々と学会に報告されました。これらの結果から何が推測されるかというと、それは視覚野、聴覚野、体性感覚野など脳の各領域は、個別の認知機能ではなく、統一的なメカニズムに従って動作しているということです。
つまり目や耳、皮膚など、個々の感覚器官から脳に入力される映像、音声、圧力などの情報は、いったん脳に入力されてしまえば、これ以降は共通の形式を有するパターンとして認識され、それは脳の統一的な認識メカニズムに従って情報処理される。これはまだ仮説の域を出ませんが、脳科学者の間でたったひとつの学習理論などと呼ばれています」
「しかし、こうした多層ニューラルネットは、すでに1980年代から存在するため、批判的な研究者の中には『ディープラーニングは新しい技術ではない』とけなす人も少なくありません。しかし本当のポイントは多層構造にあるのではなく。それが脳科学の成果を史上初めて本格的に導入したことにあるのです。
前述のスパース・コーディングもそうですし、トロント大学のヒントン教授らが開発したDeep Brain Networkと言う技術も、脳の仕組みに基づいています」

分子分子といっているばかりではなくて、やはりマクロな視点は大切。