エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

八大山人の安晩帖

南禅寺の近くにある泉屋博古館に八大山人の安晩帖を見に行った。安晩帖は、司馬遼太郎に言わせると「京都にある第一等の美術品」だそうだ。それを聞いてから一度は見ておきたいものと思っていたが、なかなか出品されない。ようやくこの春に中国絵画のコレクションを展示すると聞いて張り切って出かけていった。

感想は...うーむ、どうなんだろうという感じ。まず、実物を見れたのは、20枚ある安晩帖(鳥、魚、草といった静物画)のうち一枚だけ。何かの葉が画面の左下から右上に伸びて、その先に小鳥がとまっているという構図。それ以外の19枚は、休憩室のビデオ画像でしか見れないのだが、それにしても、これが司馬遼太郎が絶賛するほどの傑作なのかについては、私にはわからなかった。

嫁さんに言わせると、「確かに2次元とは思えないほど生きている感じがしてうまいと思うけど、目が動物の目じゃない」。それについては、八大山人の描く生き物の目は写実ではなく、清朝(あるいは世間)への八大山人の狂気を発するほどの反抗心を表している、というのが解説書的見方だが、まあそういわれればそうかなあ。

同じ会場に展示してあったほかの中国絵画とは確かに異質なのだが、個人的には石濤の黄山八勝画冊に軍配を上げたい。

ゴッホの生き方の反映としてゴッホの絵を見ると一段と際立って感じられるように、八大山人の生き方に重ね合わせて彼の絵を見ると、また違って感じられるのだろうか。そういう意味ではもう一度見てみたくなる絵ではあったが、安晩帖の別のページを目にすることができるのはまた数年先のことになりそうなわけである。

泉屋博古館の庭の桜は三分咲き。庭の真ん中には井戸があり、下の子はそこを覗きこんではきゃあきゃあ言っていた。穏やかな春の午後です。