エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

山中ファクター

毎日暑い日が続いて少しばて気味。家内が栄養ドリンクを買いこんできた。

今日は研究室のシミュレーション勉強会で1時間しゃべり倒したら結構ばてた。こんなことでは、10月の3時間の集中講義が思いやられる。うまくペース配分をしておかないと、話がいいところにいく前に途中でガス欠になりそうだ。

小飼弾のプログで高評価だった八代嘉美の「iPS細胞」を読む。

iPS細胞 世紀の発見が医療を変える (平凡社新書)

iPS細胞 世紀の発見が医療を変える (平凡社新書)

全体に優等生的記述が多くて、へそ曲がりには物足りないかもしれないが、大学院生でここまで書ければ大したものだと思う。文筆はやはり才能か。

これだけ幹細胞が流行ると、耳学問で自然と断片的な知識はインプットされるが、まとめて読むとよくわかる。知識に芯が通った気がした。

胎盤などの胎児と母体をつなぐ組織は栄養外胚葉から作られる組織なので、内部細胞塊はすでに胎盤になる能力を失っている。つまり内部細胞塊を源としているES細胞からはつくることができないのだ。
 こうした理由から、ES細胞だけを子宮に戻したとしても胎児になることはない。卵子精子を注入する人工授精でつくった胚のように、着床して胎盤をつくることができないからだ。
 つまり、受精卵が持つ能力は文字どおり万能だけれども、ES細胞はそうではない。このことからES細胞がもつ能力は万能ではなく、<多能性>と呼ばれている」
そうだったんだ。知らなかった。

「それまで生物を対象とする研究は突然変異や遺伝的な病気という現象を丹念に集め、細胞核の中身、原因である遺伝子を探り地図を描いていく、大航海時代のような<還元論的世界>であった。
 しかしゲノム計画によって、もはや手元には細胞を形づくる設計図が存在している。それは予測された部品の意義を遺伝子改変マウスによって証明する<構成論的世界>へ転換したことを意味している。そしてiPS細胞は、まぎれもなく構成論的世界だからこそ成功したということが可能なのだ」
この表現は当たっているようでいて、現場の実感からは微妙にずれている気がする。ゲノム以前とゲノム以降は、言われているほど不連続ではないというのが正直な感想である。ワトソンークリックの二重らせん以前と以降の方がよほど不連続だと思う。