エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

ドーキンスが語るグールド

リチャード・ドーキンスの初めてのエッセイ集「悪魔に仕える牧師」

悪魔に仕える牧師

悪魔に仕える牧師

私はあまりの有名さに辟易して、ドーキンスを読まずにすませてきた。「利己的遺伝子」「ミーム」というキーワードで知られる遺伝学のカリスマ、ドーキンスだが、この本を読むと、彼がいかに正統派のダーウィン主義者であるかが伝わってくる。ドーキンスにとっては、進化の漸進的性格こそが肝であるらしい。

特に読みどころは、ドーキンスが語るS.J.グールドである。ドーキンスはグールドをダーウィン主義者としての深い共感と、グールドの類まれな文才への尊敬をもって描き出している。一方で、グールドが打ち出した「断続平衡説」「カンブリア紀の大爆発」については、進化の漸進的性格を強調することで、木っ端微塵にしている。Evolutionary developmental biologyがドーキンスの発言を裏付けるので、たぶん「断続平衡説」も「カンブリア紀の大爆発」も、いつかは過去の魅力的なアイデアとして扱われることになりそうな気がする。

ドーキンスは、「2050年までには、Evolutionary developmental biology(エボデボ)の急速な進展により、発生学者は、未知の動物のゲノムをコンピューターに入力し、コンピューターは発生学をシミュレートして完全な成体を作り出すところまでいくだろう」と予言している。胚発生の謎が2050年までに解かれるだろうというのは大胆な予想だが、近年のエボデボの快進撃を考えると2050年というのはいい線かもしれない。発生学の難しさは、生物が複雑系であることがそのもとにあるので、本当にその点が解決できるのかは考えどころだが(それを実際にやってのけている生物は大したものである)。

エボデボの魅力については、この本がおすすめ。ショーン・キャロルの「シマウマの縞 蝶の模様」

シマウマの縞 蝶の模様  エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源

シマウマの縞 蝶の模様 エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源