エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

エレガントな宇宙の不在と希望

午前中、膜融合の専門家に会って常日頃疑問に思っていることをいろいろ教えてもらった。おかげでイメージング技術の限界で手が出せないあたりがかなりはっきりイメージできた。


生物学研究者出身のSF作家 瀬名秀明の第一短編集の表題作が「希望」。この手のSF好きには素晴らしい作品。

希望 (ハヤカワ文庫JA)

希望 (ハヤカワ文庫JA)


瀬名秀明の作品では「ブレインヴァレー」が圧倒的な読後感があり、中でも「神を感じる遺伝子」という発想とその作品での表現には嫉妬感を感じるほどだった。その後の長編も独自の味はあるが、晦渋さが文学としての味わいを消している気がして、「敬しつつ遠ざけて」いた。ところが、たまたま裏表紙の紹介を読んで、ウムと思って買ったところ大当たりだった。


「少女は語った。エレガントな宇宙の不在を証明した母親と、コミュニケーションの定性・定量化モデルを構築した父親と、自分の人生を」というのがその紹介。


「以前に父が教えてくれた。17世紀、ボヘミアの王女様が、デカルトという哲学者にこんな質問を投げかけた。肉体を動かす精神もまた物質だというのなら、その精神がどんな運動をしているのかお教えください。肉体が物質として運動するのなら、かたちを持った精神が、それに衝突して動かしていることになるでしょうと」

この古くからある問題に(どういう形であれ)解答が出せると考えること自体すごいと思うし、そのアクロバティックなアイデアをこういう小説という器に入れてしまった力技にはすっかり感心してしまった。