エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

知の巨人と知の怪物

愛読している「レジデント初期研修用資料」の「努力は報われないほうがいい」の記事を読んで考え込んでいる。
http://medt00lz.s59.xrea.com/wp/archives/558
「頑張った人が、「頑張り」に見合った承認を求めると、世代を重ねるごとに、「頑張り」のコストはどんどん上がる」というのはうなずける話なのだが、その先の話を読んでいくと、「では教育はどうすればいいのか」「いやその前に、自分が今やっていることはこれでいいのか」と疑問が次々湧いてくる。でも、確かにこのことは落ち着いてよく考えてみるべきことだ。


立花隆佐藤優の「ぼくらの頭脳の鍛え方」を読む。

ぼくらの頭脳の鍛え方 (文春新書)

ぼくらの頭脳の鍛え方 (文春新書)

知の巨人と知の怪物が作り上げた空前絶後のブックガイドというのが帯の文句だが、まさにそんな感じ。

ブックガイドの部分はこの新書のボリュームの半分で、残り半分は、知の巨人と知の怪物による手当たり次第のうんちくや洞察が次々と繰り出されてくる対談である。面白い。

「(佐藤)アメリカは、ある意味、フロンティア精神によって、ロマン主義が吸収されてしまったと見ることができるかもしれません。そのためアメリカの思想は、19世紀を経ないで、18世紀から一気に20世紀そして21世紀に進んでしまった。アメリカは、ヨーロッパとはかなり違う世界なんです」
アメリカはロマン主義を経験しなかったヨーロッパだというのはある一面をどんぴしゃで捉えていると思う。

「(立花)人間のダークサイドに関する情報が、現代の教養教育に決定的に欠けていますね。この社会には、人を脅したり、騙したりするテクニックが沢山ある。それは年々発達しているから、警戒感をもって、自己防衛しないと、簡単に餌食になってしまう。虚偽とは何か、詭弁とは何かについて学んでおくべきですね」
これは日々の生活についても当たっているが、同じくらい科学の世界でも当たっている。どれが怪しいデータ(or 解釈)か、Discussinのどこが詭弁かに神経を働かせるのは、(疲れるが)、必須事項だ。

「(立花)公理から出発しなければならない、と考えるのは一つの立場です。そう考えた途端公理系が存在することが前提とされ、その人の考えは公理系の中に閉じ込められてしまうことになる。大切なのは、そういうことを前提とせず、公理系があるかどうかわからないけど、とりあえず、確実と思われる体験事実を積み上げていくことで世界認識を深めていこうと考えるオープンマインディドネスなのではないかな」
生物学なんでまさにこのとおりなのだが、こうすっきり言ってもらうとほっとする。でも、実体はどれが真底確実かがわからない(セミ)泥沼だったりして、たまの休日に数学の本を読んでほっとしたりしているのが個人的実感でもある。そのあたり、まったく悟りとは程遠い。