エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

直木賞受賞おめでとう

まずは「空飛ぶ馬」以来の熱心なファンとして、北村薫さんの直木賞受賞におめでとうを言いたい。
報道を見ると、「空飛ぶ馬」は89年の作なので、ちょうど20年が経つことになる。特に「円紫さん」シリーズがお気に入りで、個人的ベスト3は、「空飛ぶ馬」「夜の蝉」「スキップ」。直木賞受賞を機に、是非「円紫さん」シリーズの新作をお願いしたい。


中沢新一の「リアルであること」を読む。

リアルであること (1時間文庫)

リアルであること (1時間文庫)

ばらばらとした雑文集だが、それでますます中沢新一の思想的引き出しの多さがよくわかる一冊。

中でも特に、「思想の二十世紀、グノーシスの時代」が秀逸。

「思想の二十世紀は、まことに逆説的な時代なのである。それは、神の死とともにはじまり、宗教の支配と影響を、徹底して否定しようとした。しかし、その思想をつきうごかしていたものは、世界の秩序を支える原理に反抗する、「反宗教としての宗教」であったグノーシス主義のなかに、たしかな反響を見出すのだ。この時代につくりだされた、創造的な思想の多くが、世界や自然との安易な和解を拒否しようとして、二元論的な特徴を持つことになった。そして、それらの多くは、宗教を否定したり、体制的な宗教を乗り越えようとして、逆にグノーシスとしての特質を、身に備えるようになった。思想における二十世紀は、こうして、グノーシスの時代として、開始されたのである」
例として挙げられているのは、ヘーゲルマルクスハイデガー。当然のように、「ドイツ・イデオロギー」であり、いずれも濃いニヒリズムに彩られている。

ところが。これが90年代に入って変質したことを中沢は鋭く指摘する
ベルリンの壁が崩壊し、ソ連は解体した。90年代に入ると、思想の全領域から、いっせいにグノーシス的なものの影響力が、後退現象を起こし始めたのである。それといっしょに、人類の思想の生産力までもが、目に見えるほどあからさまに、著しい低下をはじめたのだ」
ここには、じっと立ち止まって考えてみなければならないことがあるような気がする。

「地球文明がかかえている大きな問題を考えるためには、「一神教」vs「多神教」という偽の対立よりも、もっとデリケートな、別の対立が考えられなくてはならず、それを探すことによって、本当の未来が開かれてくる」
この問題意識が、後に彼に「対称性人類学」を書かせたような気がする。