エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

周辺に核心がある

今、とても知りたいことがある。学生さんとある蛋白質のリン酸化を調べているのだが、どうもリン酸化と機能の間に非常に奇妙な関係がありそうな気がしてきている。残念なことにその領域の立体構造はまだ決められていないので、そのメカニズムが具体的に想像できない。そうこう考えているうちに、だんだん自分たちで決めてやろうか、という気になってくる。そうか、構造生物学に入っていく人たちはこういう気持ちでいるのか、と最近考えている。


下條信輔の「サブリミナル・インパクト」を読む。

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)

下條さんは固い人なのだが、すぱすぱと「無意識」とか「前意識」とか言ってしまうので、あやしげな脳科学者と一緒にされがちな人でもある。この本はそういう下條さんのいいところがかなり出た一冊。でも、筆の立つ茂木さんとどうしても比較されてしまうのは損だ。

一番「これは使える」と思ったのは、最後の「創造性と「暗黙知の海」」の章。

「たとえば、UCLA知覚心理学者P・ケルマンは、小中学校で教える算数や数学のような強化でも、暗黙知の学習が明示的な学習よりも教育効果が大きいことを示しています。
彼は生徒を二つの群に分け、そのうちの一群は従来どおり定理や公式を教えて例題をたくさん解かせるやり方で訓練しました。もう一群はいっさいそのような知識を与えず、例題すら触れさせず、全く違うトレーニングをしました。どんな内容のトレーニングかと言えば、ただ問題の直観的な見方を養ったり、問題の分類の仕方、構造や解法に向かうための対応付けの仕方だけを、徹底的に訓練したのです。
その結果は驚いたことに、後者の方が学習効果が大きかったのです。繰り返しになりますが、後の群では練習問題すら解かせていない点に注目してください」

今週から、中二の娘に受験勉強用の数学のまとめノートを作らせているので、こういう話を聞くとビットが立ってしまう。自分の受験時代を思い返してみても、「手続き記憶」を利用するというのはとても上手い手だと思う。

こういうところも「そんな手があったか」とはっとする。
「「オリジナリティはどの場所に存在するか」という問いに敢えて答えようとするなら、次のように言うしかないでしょう。天才という一個人の前意識と、自然環境または社会環境との間の、精妙な相互作用の中に、と」

「いずれにせよ、いろいろな意味で「周辺に核心がある」、これは確かだと思います」

「神は細部に宿る」ように、「周辺に核心がある」わけだ。