エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

サウンドトラック

気になっていた実験があったので、雨の降り出す前にと思い、朝から研究室に行って一仕事してきた。花水木が終わり、今はつつじが盛り。


古川”アラビアの夜の種族”日出男の「サウンドトラック」を読む。2003年の作。

サウンドトラック

サウンドトラック

古川の小説を読むのは2作目。「アラビアの夜の種族」は各誌絶賛という感じだったので、一応目を通したが、正直まあ普通の小説だと思った。だから、豊崎”百年の誤読”由美の推薦作でなかったら、「サウンドトラック」を読むことはなかったかもしれない。これは傑作だと思う。私的には「サウンドトラック」>>「アラビアの夜の種族」です。村上春樹が好きだが、最近の村上春樹にはもうひとつ入り込めないと感じている小説好きには、この本はいいかもしれない。

主人公は二人。トウタとヒツジコ。舞台は2000年代の東京(八丈島および都心)。主人公二人は幼くして事件に巻き込まれ、2年間無人島で二人で暮らし、社会の外で生きはじめる。その二人が東京を奪りに行く物語だ。トウタはアウトロー。ヒツジコは教祖的ダンサー。

「踊りながら、ヒツジコは携帯電話を取り出す。
 その番号は、誰もが知るものではない、だから。
 懐かしすぎた声がいう。
「いっしょに東京を奪還するかあ、ヒツジコ」
「トウタ?」

特に、ヒツジコのキャラクターはエッジが立っていてときどき描写にぞくりとする。

「そしてヒツジコは踊る。その踊りは止まらない。ついにヒツジコは、この東京の、西荻窪の、このクリスタルナハトの騒々しさを憎みだす。いっさいを明瞭に自覚する。この我慢できない世界を、あたしが、踊って滅ぼす。その自覚。内側から燃える覚醒。いよいよヒツジコは目覚める」
「ユーコちゃん、あたしは譜面で踊れるのです。そしてあたしにとっては地図という地図は全部、踊りの楽譜として読めますから」

この本、映画でみてみたい。