エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

トリックのレベルはさらに上だが

楽しみにしていた東野圭吾の新作「聖女の救済」を読んだ。

聖女の救済

聖女の救済

快作と言っていいが、評価はちと難しい。トリックのレベルはガリレオシリーズ前作の「容疑者Xの献身」よりもさらに上だが、ガリレオ湯川の敵役のキャラの魅力では「容疑者Xの献身」には及ばない気がする。もっとも「容疑者Xの献身」は、天才物理学者対天才数学者の対決という設定で理系人間のツボをおさえられたので、特に高い評価をしているわけだが。

容疑者Xの献身」が5年に1作という名作だとしたら、「聖女の救済」はややおよばないが今年の1作という候補には入るであろう作品というあたりか。評価は東野圭吾に対するひいきを入れて5つ星。

当たり前だが、ガリレオ湯川のしぐさのいちいちで福山雅治の演技が残像のようにかぶってくる。「容疑者Xの献身」を読んだ時にはそういう余分なフィルターなしに読めたので、自分のイメージでキャラを膨らませて読み、読後の余韻がより深かった気がする。よく言われることだが、小説の映像化には、読者の想像力を制約してしまうデメリットがある。

20年読み続けている東野圭吾の作品に個人的にランキングをつけるとこんな感じ。

1. 学生街の殺人(1987)はじめて読んだ東野圭吾の作品で、個人的には今でもベスト作品。学生達のいかにもありそうな日常の中に、感情のもつれや殺意、犯罪が紛れ込んでくる展開が新鮮だった。
2.容疑者Xの献身(2005)とんでもない名作だとおもった。ただあとでトリックとして特異な性格を持ってくるのはもうひとつかとも思った。
3.聖女の救済(2008)今年読んだ推理小説では現時点ではベスト
4.白夜行(1999)いい小説
5.秘密(1998)東野圭吾がメジャーになったのはこのあたりからだろう。自分にも娘が生まれていたので、ツボをつかれて好きな作品である。