エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

理研BSI訪問

月曜火曜と東京に出張。4時くらいになると京都よりは随分涼しくて動きやすい。

月曜日は和光市理研BSIに先輩のO先生を訪ねた。今いっしょに仕事をしている学生さんは脳をやりたいとは思っているが、脳の何をやりたいのかイメージできないと言う。そういうときは脳研究の現場を見るに限るということで連れて行った。O先生は1万匹のゼブラフィッシュ(めだかに似た研究用のお魚)を飼っている。見渡す限りの水槽(実はカブトムシとかを飼うプラスチックの箱)は壮観だ。世界でもこれだけのゼブラフィッシュを飼っているのはあと2、3箇所しかないらしい。O先生はもともとは発生屋だが、7年前に一念発起して情動(恐怖とかですね)神経回路の研究に転じた。今はいろいろな仮説が頭の中で渦を巻いて興奮気味である。神経科学はこの10年が一番楽しい時代になりそうだね、というのがO先生の予言。「意識と脳のつながりみたいな難問は10年では片がつかないのではないか」とつっこんだら大激論になった。議論しても尾を引かないのは、古い付き合いだからで、ありがたい。

火曜日は同じ理研BSIのK先生のところで成長円錐のturning assayの指導を受ける。K先生がアメリカ人を呼んできてset upしてもらうまでは日本では誰もできなかった実験だ。なるほど職人芸であることがよくわかった。がんばって日本で2番目にturning assayを実現したグループになるぞ。

3時間しっかり指導を受けたあと、有明の癌研究所にいるHさんのところにでかけて部長就任祝いを渡す。20年付き合った友人はいいものだ。余計な気をつかわずにいろいろな話をしているとあっという間に最終の新幹線の時間になったので急いで帰る。

真山仁の「ペイジン」を読む。

ベイジン〈上〉

ベイジン〈上〉

ベイジン〈下〉

ベイジン〈下〉

北京オリンピックにあわせて世界最大の原発を大連近くに作るというお話。中国は自国製にこだわり、そこへ日本の原発技術者が乗り込んで、どうにか運転開始を北京オリンピックにあわせるべく奮闘する。平行して原発利権の奪い合いや汚職の摘発、中国共産党内部での勢力争いが絡み始め、自体はタイムリミットに向かって錯綜していく。

読みながらずっと、日本人は中国とどう付き合えばいいのかを考えていた。

中国の自国中心主義は苦手だし、今後の世界を大きくゆがめると思ってきた。日本一国では扱いかねるだろうから、例えばインドをうまく土俵に上げて、三すくみというか三国鼎立の形にするのが賢明なのではないかというのが自分の考えだった。

「ペイジン」を読みながら少し考えが変わった。確かに現代中国人は日本人の理解を超えた振る舞いをする事が多い。しかし、それは日本人があまりに無菌培養的な社会で過ごしすぎたことを意味しているのかもしれない。たとえば現代中国人に象徴される行動が世界のスタンダードだとしたら、それを理解する努力をするのが今後日本が生き残る道だろう。そのためには歴史に学ぶのがまだ耐えやすかろう。歴史の中で浮き沈んできた中国の人たちの現在の断面図として現代の中国人を見ることはできないだろうか。

「先進国は、中国の反映の影で深刻化する格差社会に注目しているようだ。だが、中国に格差なんぞない。富める者と貧しき者は、それぞれ別の国の人間なのだ」

「逮捕された人間は、権力争いに敗れた者ばかりだ。つまり、新陳代謝なんだよ。それを汚職による逮捕と銘打っているにすぎない」

「この国は厄介な国です。一見、誰もが感情をむき出しにして衝突しているように見えますが、本気で感情的になったら負けです」