エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

茂木健一郎と脳と量子力学

昨日の夕方、先々週に放送された仕事プロフェッショナル特別編「茂木健一郎」をビデオに録っていたものを観た。記憶術、集中術、人の育て方など。テンションの高さに感心した。

人の育て方については感じるところがあった。すかさずほめる、とにかくほめるのがいい。なぜならほめられた快感でドーパミンが脳幹から分泌され、脳を活性化して能力を伸ばすのだ、と。腑に落ちた、と同時に、学生を育てるのもこうでないといけないのだと思った。ついつい「獅子はわが子を千尋の谷に落とす」とか「鉄は熱いうちに鍛えろ」とか思ってしまう方だが、それではいかんらしい。確かに、それではいけないらしいと感じることが最近増えた。早速今日から実施。のつもりなのだが人をほめるのは慣れないと難しい。

さて本日の2題め。書き物の途中で文章が出てこなくなり、いろいろ文献を探しているうちに、面白そうな論文を見つけた。アルバータ大学のKuritaさんの"Indispensable role of quantum theory in the brain dynamics"という論文。

脳はコンピュータではない、というのは先日のエーデルマンあたりが力説してきた話だが、だいぶ受け容れられているらしい。では脳は量子コンピュータではないのか、というのが次に出てくる話である。Kuritaさんの話はそこから始まる。「脳は量子コンピュータではない」という文献があるが、それはつまり脳は古典力学で説明できる事を意味するのか、というのがKuritaさんのquestionである。

この論文でのKuritaさんの結論は、「脳は量子コンピュータではないけれども、脳を力学系として理解するためには量子力学の枠組みが不可欠である」ということらしい。ふーん、そういうものかな。何だか中身は随分むずかしそうである。今日は仕事中にそこまでの道草をする暇はなかったが、そのうち時間をみつけてざっとでもいいから読んでみたい。ペンローズの二番煎じでなければいいけど。

でも、脳やら意識やらを理解するために、量子力学、特にそのパラドキシカルな本質を理解する必要があったとして、神経科学者のうちどれくらいの割合がそれをこなせるだろう。心脳問題も量子力学の認識論も極めつけの難問である。その2つが結びついているのはいかにもありそうである。一挙に理解できるのであれば、お徳かもしれない。