エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

ひれくれ者だが正しい

ポール・ファイヤアーベントの自伝を読む。

哲学、女、唄、そして…―ファイヤアーベント自伝

哲学、女、唄、そして…―ファイヤアーベント自伝

稀代のひねくれ者にしてアナーキズムの科学哲学者。科学はAnything goesであると断言した男。

ウィーンに生まれ、ナチスの旗のもとで戦争を戦い、負傷しその痛みを生涯抱え、早熟な議論家であり、真剣に歌手を目指し、4度の結婚をした男。安住の地を持たず、でも生涯の最後に愛を見出した男。

アナーキズムの科学哲学者がこうして生まれたということが腑に落ちる自伝だった。

「「アナーキズム」には、単なるレトリック以上のものがあると確信している。世界は、科学の世界も含めて、理論や規則類では捉えきることのできない、複雑でばらばらな実体である。学生であった時、私は哲学者によって育成された知的な腫瘍を笑いのめしていた。私は、科学的な成果を巡る論争に、「はっきりさせよう」というスローガンが介入してくると、我慢できなくなるのだった。この「はっきりさせよう」というのは、結局のところ、問題をまやかし論理学の形に翻訳することだったのである。」

「ものを書くというのはとても楽しい活動である。大体同じおおまかなパターンがある。最初はとてもぼんやりしている。それでも出発点を私に示してくれるほどにははっきりしている。次に細部が来る。単語を文章やパラグラフに纏め上げる。語の選択は非常に慎重に行う。音としても的をいなければならない。正しいリズムを持っていなければならない。その上、語の意味は僅かに中心から外れていなければならない。手垢のついた概念を続けるほど精神を鈍化させるものはない」

命がけの癖論家という奴である。なのに正しいと感じさせるのが不思議である。