- 作者: 小島寛之
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2008/08/01
- メディア: 単行本
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私は小島寛之の数学本を愛読しているが、彼の本職の経済本は手に取ったことがなかった。これが初めてである。ブログ等から、小島寛之のケインズへの一方ならぬこだわりを知っていたので、少し興味を持った。
表紙に「不況、バブル、格差。すべてはこの男のアタマの中にある」とある。
現下の経済情勢がどう転んでいくかには人並みの興味がある。それなりの投資をしているので、それがどれくらいの時間でどうなるのかはできれば見当をつけたい。そういう気持もあった。
読んだ結論としては、資本主義は本質的に不安定で、不況は織り込み済みらしいが、結局最後は、人間の「少しずつでもできればよい暮らしがしたい」本性が経済も動かすのでは、という感触が残った。小島寛之の議論には、そういう意味での向日性があるようだ。
「これはあくまで推測の域を出ないのだが、ケインズが乗数効果を主張した、その真意の中には、このような格差社会における所得移転が有効需要を作り出し、社会を安定化させることがあったのではないか、とぼくは思う。つまり、ケインズは、「格差是正にこそ、資本主義の安定の道がある」という画期的なことを考えていたに違いない、ということである」
現下の経済情勢については、こういう意味づけをしている。
「現代の金融取引は、高度な確率理論のテクノロジーによってサポートされている。確率が分かる限り、それがどんな水準のものであれ、制御の方法を見出す事ができる。だが、今回、金融トレーダーたちが直面しているのは、ある意味で、「確率のわからない環境」だ。サブプライムローンというこれまで経験のない金融商品で起き始めた損失拡大、しかもその損失の火種は細分化されて多くの金融商品に混入されてしまっている。さらに困ったことに、どの金融商品にどのくらい混入されているか、またどの金融機関がどのくらいそういう商品を保有しているかがはっきりしない。こういう状況が、現代金融が得意とする「確率計算」という技法をふうじてしまったのである」
「現代金融の立場で言うなら、「リスク」とは確率理論を総動員することで制御できるものであり、「不確実性」とは確率がわからないから手の打ちようのないもの、ということになろう。今回直面しているサブプライムローンの混乱は、「リスク」ではなく真の「不確実性」との遭遇だということなのである」