エヌ氏の成長・円錐

小胞輸送研究をはじめて18年めの分子神経科学者の日々雑感

時間の矢、生命の矢

夕べは、近くで花火大会。どーんどーんという音が聞こえてきたらやはりむずむずしてきて、家内と自転車で音源の方へ向かう。途中の歩道橋に人が並んで見物していたので、それに加わることにする。たぶん5年ぶりくらいの花火だった。


ピーター・コヴニー&ロジャー・ハィフィールドの「時間の矢、生命の矢」を読む。

時間の矢、生命の矢

時間の矢、生命の矢


エントロピーは現在から未来に行く方向にも、過去に行く方向にも増大する」という話をブライアン・グリーンの本で読み、統計物理が専門の友人にそのことを確認して以来、「時間が不可逆的に流れる」ことをどう客観的に納得できるのかがわからなくなっている。「時間の矢、生命の矢」は少し古いが、その手のことを扱った有名な本のひとつなので、夏休みをはさんでゆっくり読んでみた。


結論からいうと、(当然のことながら)解答は示されていない。ただ、時間非対称の非線形力学方程式で記述される新しい量子力学(量子重力理論)が、力学と熱力学を無理なく統一する自然な方向であろうという感触を得た。

「したがって、もしエントロピーのような量を発見することができれば、ニュートン方程式をリウヴィル方程式で置き換えなければならなかったように、確率的な方法をとって、可逆的な波動関数を捨て去ることができるだろう。不可逆性が認められるや否や、最大の謎であった波動関数の収縮が謎ではなくなる。この視点に立つと、観測過程はとくに注目すべきことではなくなってしまう。それは、熱力学の第二法則に従う不可逆過程の典型的な一例に過ぎない」


もちろん、非平衡熱力学やカオスの話も要領よく記述されていて、時間の付加逆性とそれらが関係してくることが自然に飲み込める。

「実際のところ、クラウジウスのエントロピーの定義は、平衡状態のためになされたもので、平衡状態ではないときにエントロピーを一般的に定義できるかという問いには、まだ答えが得られていない」

「このことから導かれる結論の一つは、微視的な平衡状態は存在しえない、ということである。時間対称の法則のもとでは、すべての瞬間が等価であるために、変化の可能性がまったく残っていない終わりの状態はありえない」